1-2 海洋へ放出された放射性物質

−日本近海域における拡散シミュレーション−

図1-6 海洋放出と大気降下量を考慮したシミュレーションによる、海表面における137Cs濃度の水平分布

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図1-6 海洋放出と大気降下量を考慮したシミュレーションによる、海表面における137Cs濃度の水平分布

事故直後は大気放出によって福島,宮城の沿岸域及び宮城の北東方向に沿って137Csが海表面に沈着し、その後、1Fから海洋へ137Csが直接放出されたと考えられます。海洋中の137Csは海流によって混合希釈されながら輸送されます。

東京電力福島第一原子力発電所(1F )は沿岸に立地しているため大気中に放出された放射性物質の多くは東方へ輸送され海洋に沈着しました。また、原子炉の冷却のために使用した水の一部が破損した施設から漏えいし、海洋へ流出しました。海洋へ放出された放射性核種の実態を把握することは、今回の事故が海洋環境へ及ぼす影響を評価する上で重要です。そこで、京都大学が開発した海洋大循環モデルと原子力機構が開発した海洋中物質拡散モデル(SEA-GEARN)を用いて数値シミュレーションによる海洋拡散解析を実施しました。

放射性核種の海洋中移行シミュレーションを実施するためには、海流場を予測することが必要となります。本研究では観測データを数値モデルに同化する高性能なデータ同化手法のひとつである4次元変分法を適用することで、海流データの精度を向上しています。

1F事故起因の放射性核種の海洋中移行をシミュレーションする上で最も大きな問題は、放射性核種の放出量に関する情報がほとんどないことでした。そこで、海洋へ直接放出された放射性核種については、東京電力株式会社による1Fの放出口付近の海洋モニタリングデータを使用することで放出率を推定しました。また、大気から海表面へ沈着する放射性核種の量については、原子力機構が開発したWSPEEDIによる計算結果を使用しました。

図1-6は海表面の137Cs濃度の水平分布を示しています。大気放出は3月15日にピークとなり、福島,宮城の沿岸域及び宮城の北東方向に沿って高い濃度が沈着しました。沈着した核種は親潮系水によって混合希釈されながら南下します。黒潮域に到達した核種は活発な渦活動によって急速に混合希釈され、離岸した核種は黒潮続流によって東に輸送されます。黒潮続流の強い流れは核種を太平洋東方へ運ぶ効果がありますが、黒潮続流から外れた核種はしばらくその場に停滞する傾向を示しています。

1Fから海洋へ放出された137Csは希釈されながら北太平洋域を拡散すると考えられるため、今後は北太平洋全域を含む長期間のシミュレーションを実施し、海洋環境への影響評価を行う予定です。



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