13-9 イオンマイクロビームでテフロンの微細加工に成功

−高分子材料表面の新しい微細加工技術の開発−

図13-19 H+マイクロビームでテフロン表面を隆起させる走査方法及びこれにより作製できる微細構造体の例

図13-19 H+マイクロビームでテフロン表面を隆起させる走査方法及びこれにより作製できる微細構造体の例

3 MeVのH+マイクロビームを中心点から広がるように正方形や円形を螺旋状に描くと、その中心が頂点となる四角錐や円錐を作製できます。

 

図13-20 H+マイクロビームで芝生状構造面の中に滑らかな面を作る方法及びこれにより作製した表面の例

図13-20 H+マイクロビームで芝生状構造面の中に滑らかな面を作る方法及びこれにより作製した表面の例

3 MeVのH+マイクロビームを水平に走査して交互に四角を描いた後、全面を均一に250 keV N+ビームで照射すると、走査した領域のみが滑らかな面となり、芝生状構造の中にチェス盤状の模様ができました。

高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(TIARA)では、直径1 μmに集束させたイオンマイクロビームを、自由な形状に二次元走査できる技術開発を行い、プロトン(H+)を使ったプロトンビーム描画と呼ばれる微細加工法を確立しました。既に、レジスト材料では、描画後に化学薬品による現像処理を行うことで、プロトンビーム描画でしかできないアスペクト比の高い微細構造体を成形できることを示しています。私たちは、ほとんどすべての化学薬品に安定で、微細加工が困難なテフロンR(フッ素系高分子材料)に着目して、イオンマイクロビームだからこそ実現できる微細加工に関する研究を進めました。

最初に、MeV級のエネルギーを持ったH+マイクロビームで、表面の局所に微細構造体を隆起させる、全く新しい微細加工方法を実現しました(図13-19)。3 MeVのH+ビームは、テフロンの内部100 μm程度の深さにまで直線的に侵入します。この過程で、テフロンの長い高分子鎖を短く切断して低分子量化させます。ビーム電流や照射時間、走査パターン等を変えると低分子量化の度合いが変わるので、それによって発生する分解ガスの量が変化します。表面に噴き出すよう試料内部での発泡を誘発させると図13-19に示すように照射領域が隆起します。

一方、テフロンについては、keV級のエネルギーを持った窒素分子イオン(N+)ビームで広範囲を均一に照射すると、照射面全体がμmサイズの芝生状構造となること、これに加えてH+マイクロビームが誘発する発泡による表面形状変化が起こらない照射量等の条件を見いだしました。あらかじめH+マイクロビーム照射によりテフロンを低分子量化させると、keV級のN+ビームを照射したときに低分子量化された部分が均一に蒸発して平坦になります。この現象を利用して、芝生状構造面の中に、突起の先端より低い位置に平滑な面を作製する技術も開発しました(図13-20)。

これらエッチングを要しない一連の微細加工技術は、化学薬品で加工することが困難な材料に適用できる特徴があり、イオンビームだからこそ実現できるもので、今後は、テフロン以外の様々な材料に応用を広げたビーム加工技術の開発を進めていきます。



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