1-19 セシウムをより強く吸着するゼオライトの仕組み

−第一原理計算が示したゼオライトの構造と吸着性能の関係−

図1-40 モルデナイトと呼ばれるゼオライトの結晶構造

図1-40 モルデナイトと呼ばれるゼオライトの結晶構造

モルデナイトはSiとOによる骨組みを持っています。その中のSiの一部がAlに置換されることでセシウムイオン(Cs+)を吸着することが可能となります。なお、濃く表示した部分はCsの吸着部分で、図1-41にその部分での計算結果を示します。

 

図1-41 ゼオライトのCs+吸着部分での吸着エネルギーの分布

図1-41 ゼオライトのCs+吸着部分での吸着エネルギーの分布

Csが吸着する領域(図1-40にて濃く表示した部分)に注目し、そこでのCsとNaの吸着エネルギーをAlの原子数を変化させて比較しました。「Al:」の後の数字がAlの原子数で、色の濃い部分は吸着エネルギーが小さいところです。

東京電力福島第一原子力発電所事故により、放射性セシウム(Cs)等を含む膨大な量の汚染水の処理が重要な課題となっています。現在は、吸着剤を用いて汚染水からCsを除去していますが、その吸着剤のひとつとして有名な材料がゼオライトです。一言にゼオライトといっても、その種類は、数100種類あり、Csをよく吸着するものもあれば、全く吸着しないものもあります。もし、今利用されているゼオライトよりもCsをたくさん吸着し、脱離等の制御も容易なものが供給できれば、汚染水処理はより効率的に進むと考えられます。

望みの性能を持つゼオライトを開発するためには、まずCsがどのように吸着するのかが分からなければ、開発の方針さえ立てることができません。しかし、Csの吸着は、原子レベルのミクロな世界で起こっているため、そのミクロな吸着の仕組みを実験や観測という手段だけで迫るのは簡単なことではありません。こうして、ミクロなシミュレーションが吸着の仕組みの解明のための有力な手段となるのです。

これまでにも、Csをよく吸着するゼオライトがどのような特徴を持っているかは、経験的には知られていました。しかし、なぜそれらの特徴を持つとCsが吸着しやすいのかは、根本的には分かっていません。そこで、その原理を明らかにするために、Cs吸着性能が高いゼオライト(図1-40)に注目し、その構造内部でのCsの吸着エネルギーを詳細に計算しました。計算手法としては、電子レベルから計算するため最も信頼性が高い「第一原理計算」を用いました。その計算結果の一部を図1-41に示します。この図は、Csが吸着した際のゼオライトのエネルギーを、その吸着点に対し色分けしたものです。エネルギーの最小点が分散しているNaと比べて、Csのエネルギー最小点は一点に集中しており、Csをしっかりとその一点に固定するため、より強く吸着できることが分かりました。これらの計算から、Csを吸着するゼオライトの特徴が根本から分かっただけでなく、これまでに知られていない特徴も発見することができました。このように、吸着に対する理解が深まることによって、高性能な吸着剤開発のための科学的指針を打ち立てることが可能となります。その指針を基に、吸着剤の開発が進めば、Csの効率的除染やその他の放射性物質の処理にも広く貢献できると期待されます。



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