7-3 超伝導体の電子系のゆがみをあやつる

−URuSiの格子ゆがみと電子系ゆがみの結合−

図7-7 実験に使われた圧力セル

図7-7 実験に使われた圧力セル

中央の黒い直方体が試料です。上下にある赤い板が試料を挟み込むことにより試料の上下方向に圧力がかかります。この圧力が試料をゆがませます。

 

図7-8 ゆがんだ電子状態への転移温度の圧力依存

図7-8 ゆがんだ電子状態への転移温度の圧力依存(線)

通常の状態では電子系は4回対称ですが、低温では2回対称にゆがみます。圧力によって格子をゆがませると、電子が2回対称になる転移温度が上昇することが分かりました。これは電子と格子の2回対称ゆがみが結合していることを示しています。

超伝導状態では、二つの電子が対となり超伝導電子ペアを組みます。このペアを形成するには電子がお互いに引き合う、つまり引力が必要です。従来の超伝導体では、この引力の起源は結晶格子の振動でした。しかし、ウランやネプツニウムなどを含む超伝導体では、磁気揺らぎがその起源となっていると考えられています。磁気揺らぎから誘起される特異な超伝導では、従来の超伝導に比べて高い超伝導転移温度が期待できるので、その起源の解明は重要な課題です。

超伝導体URuSiは、約2 K (−271 ℃)で超伝導になりますが、それより高温(2 K〜17.5 K(−256 ℃))で「隠れた秩序」と呼ばれる状態があります。この状態の磁気揺らぎが超伝導を引き起こしていると考えられますが、25年にわたって、隠れた秩序は未解明であり、固体物理の難問のひとつになっています。この超伝導体の通常状態 (17.5 K以上) では、電子系と結晶格子は4回対称になっています。最近、隠れた秩序状態では、電子系が2回対称にゆがんでいることが分かってきました。そこで、本研究では結晶格子を2回対称に人工的にゆがませることで電子系の隠れた秩序状態がどう変化するか調べることを試みました。そのために図7-7に示す圧力セルを開発し、人工的にゆがみを作ることに成功しました。その結果、図7-8に示すように、隠れた秩序への転移温度を結晶格子ゆがみで上昇させられることが分かりました。これは、超伝導を誘起する磁気揺らぎを人工的にあやつることができることを意味しています。この技術を応用すれば、高い超伝導転移温度を誘起する磁気揺らぎの解明や高温超伝導体の開発にもつながります。

室温で超伝導になる高温超伝導物質が見つかれば、リニアモータへの応用などの大きな社会的インパクトがあるため、その開発努力が続けられています。今後、私たちは、超伝導が磁気揺らぎから誘起される発現機構について色々なアクチノイド化合物について明らかにしていきたいと考えています。



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