8-2 高エネルギー放射線による原子核破砕の正確な予測に向けて

−フラグメント生成反応の新手法による断面積測定と理論モデルの開発−

図8-5 高エネルギー原子核破砕反応シミュレーションの流れ

図8-5 高エネルギー原子核破砕反応シミュレーションの流れ

本研究の改良により、図中の赤で示したマルチフラグメンテーション過程を模擬するモデルが加わりました。これにより、エネルギーの高い原子核は多数の破砕片に分裂する反応を経て、フラグメントを形成します。

 

図8-6 フラグメント生成反応断面積の比較

図8-6 フラグメント生成反応断面積の比較
(上:NatPb(C,x)24Na反応,下:NatPb(C,x)83Rb)

反応断面積の実験値と、PHITSコードによる計算値を比較した例です。従来の計算値は実験値を最大で100分の1〜10分の1程度に過小評価していますが、本研究で改良したPHITSによる計算値は実験値と良く一致しています。

加速器施設では高エネルギー放射線が原子核を破砕して、多様な放射性の核破砕片(フラグメント)を生成します。放射性フラグメントは運転終了後の加速器施設内における放射線源となるため、例えばメンテナンス作業時の安全管理で注意が必要となります。しかし、加速器の遮へい設計等に用いられてきた放射線輸送計算コードは、重元素からのフラグメント生成を正確に計算できない問題がありました。

そこで、この問題を解決するため、私たちは、独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子線がん治療装置HIMACで、炭素イオンビームで照射された鉛のフラグメント生成断面積を測定し、その測定結果に基づき、粒子・重イオン輸送計算コード(PHITS)の核反応モデルを改良しました。測定では、積層された鉛の板に炭素ビーム照射を行い、鉛板一枚ごとに生成したフラグメントを測定する新しい手法により、50〜400 MeV/核子の広いエネルギー範囲で断面積を測定することができました。従来のPHITSによる計算結果は、この測定値を最大で100分の1程度に過小評価しました。その理由として、PHITSコードは励起核が必ず核分裂・蒸発過程を経ることでフラグメントを生成すると仮定しており、核が多数の細かい破砕片に分裂するマルチフラグメンテーション過程を扱えていないためと予想しました。そこで図8-5に示すように、PHITSコードの計算モデルに、様々な分裂パターンの確率を統計力学に基づき計算し、実際に起こる分裂のパターンを決める統計マルチフラグメンテーションモデルを新たに組み込みました。改良後のPHITSにより計算されたフラグメント生成断面積は、実験値を精度良く再現できるようになりました(図8-6)。

この成果により、PHITSコードを用いた放射性フラグメント生成断面積の正確な予想を可能とし、高エネルギー加速器施設における放射線安全評価の高精度化に大きく貢献することができました。

本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(No.24860072) 「中高エネルギー重粒子の核破砕片生成反応断面積の測定とエネルギー依存性評価」 の成果の一部です。また、独立行政法人放射線医学総合研究所との共同利用研究 「Benchmark experiment of activation induced by high-energy heavy ions」 の成果を含みます。



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