1-8 樹木に沈着した放射性セシウムの枝葉内部への移動を探る

−放射線可視化による放射性セシウムの植物内移行挙動観測−

図1-16  福島県内で採取した1F事故後2ヶ月後に採取したカヤの写真(左)と放射能分布像(右)

図1-16 福島県内で採取した1F事故後2ヶ月後に採取したカヤの写真(左)と放射能分布像(右)

カヤに沈着した放射性Csが1F事故以前に生育していた枝葉表面に斑点状に分布しますが、で囲んだ1F事故後に生育した枝葉部分にはほとんど分布していません。

 

図1-17 1F事故約2年後に採取したスギの写真(左)と放射能分布像(右)

図1-17 1F事故約2年後に採取したスギの写真(左)と放射能分布像(右)

スギ表面に沈着した放射性Csは、で囲んだ1F事故以前に生育していた枝葉や雌花部分には斑点状に分布します。一方、1F事故後に生育したで囲んだ枝葉や雄花部分に分布しています。

東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により森林に降下した放射性核種は、樹木にどのように付着し、その後どのように移動するのか、これらを知ることは1F事故による森林汚染の実態解明のために重要な課題です。チェルノブイリ原子力発電所事故における研究では、事故後10年以上経過した樹木中の放射性セシウム(Cs)の分布調査で、降下した放射性Csが根から吸収されて幹や葉に移動していたことが報告されていますが、いつの時点で新しい枝葉に移動するのかは不明でした。樹木中の放射性Csの分布は、細断した試料の放射能を部分ごとにγ線検出器で測定して求めますが、これには手間と時間がかかります。そこで、イメージングプレート(IP:放射線に反応する蛍光体が塗布された板)に放射能分布を画像化する、オートラジオグラフィという技術を用いることで、樹木中の放射性Csの分布を調べました。

IPに樹木試料を密着させ、放射線量を記録し、これを画像解析して試料の放射能分布像を得ました。測定に用いた樹木試料は事故後の経過時間が異なるものです。

1F事故後2ヶ月経過して採取したカヤの放射能分布像(図1-16)では、1F事故以前に生育していた枝葉部分に放射性Csが斑点状の黒点として検出されました。一方、1F事故後に生育した枝葉部分には、黒い影すなわち放射性Csの分布はほとんど見られません。これは、1F事故後2ヶ月程度は、カヤに沈着した放射性Csは事故以前に生育した枝葉表面に留まり、1F事故後に生育した枝葉部分への移動が少ないことを示しています。スギでも同様の結果が得られました。

1F事故後約2年経過したスギ(図1-17)では、表面に沈着した放射性Csが1F事故以前に生育した古い枝葉や雌花部分に斑点状に分布していました。一方、1F事故後に生育した枝葉では、ほとんどの部分では放射性Csが検出されませんでした。ただ、先端の枝葉や雄花部分では古い枝葉中の濃度に比べてごく少量が局在していることが分かりました。スギの枝葉の先端部分は、成長が活発なことが知られています。このことから、樹木表面に沈着した放射性Csの一部が、転流により成長が活発な部分に濃集したと考えられます。

これらの結果は、1F事故により樹木表面に降下沈着して斑点状に分布した放射性Csの一部が、約2年かけて1F事故後に生育した枝葉部分に移動することを示しています。



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