5-3 微量元素の添加が強誘電体に与える効果を調べる

−ビスマスフェライトの強誘電性改変機構の解明−

図5-11 強誘電体のヒステリシス曲線

図5-11 強誘電体のヒステリシス曲線

強誘電体に電界をかけると電荷の偏りが生じます。これを分極といいます。結晶内の分極の向きを可視化したものが、D-Eヒステリシスループです。

 

図5-12 ビスマスフェライトのD-Eヒステリシスループ

図5-12 ビスマスフェライトのD-Eヒステリシスループ

ビスマスフェライトは分極の向きを外部電場によって変えることがほとんどできません()が、微量のZnとMnを共添加すると、強誘電性特性が劇的に向上し、ヒステリシスループが観測されます()。

 

図5-13 添加したMnのXAFSスペクトル

図5-13 添加したMnのXAFSスペクトル

ZnとMnを共添加すると、試料内のMnの価数はMn単独添加したときとは異なる価数となります。

 

図5-14 欠陥誘起型の分極反転

図5-14 欠陥誘起型の分極反転

ドープされたZnとMnは母相とは価数も局所構造も異なるために欠陥双極子を生成します。欠陥双極子がドメイン反転のための生成核となり、低電界でもドメイン反転を可能にした結果、ヒステリシスループが開き、ビスマスフェライトの強誘電性が向上します。

原子力機構の保有するイオンビーム照射装置(TIARA)で強誘電体薄膜に微量のイオンをインプランテーションすると、特性向上することがしばしば観測されます。しかしながら、薄膜試料ではインプラントされた添加物が微量なので詳細な構造解析を行うことができず、ドープ効果による特性改変機構が分かりません。そこで、バルク試料においてイオンインプランテーションと同様の状態を再現し、微量元素のドープ効果について調べました。

磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック材料として知られるビスマスフェライト(化学組成 BiFeO)は自発分極が小さいのですが、微量の亜鉛(Zn)とマンガン(Mn)を共添加することで劇的に強誘電特性が向上します。図5-11に 強誘電体のヒステリシスループ観測の原理と図5-12にビスマスフェライトの分極(D)-電場(E)ヒステリシスループを示します。純粋なビスマスフェライトは非常に抗電場が大きく、電場を印加してもループが開かずほとんど自発分極が観測されません。しかし、ZnとMnを共添加したビスマスフェライトは大きくループが開き、非常に大きな自発分極が得られています。ビスマスフェライトに添加したZnとMnはモル比でわずか0.5%です。イオンインプランテーションした時と同様に、非常にわずかな量にもかかわらず、どのように強誘電体としての特性を向上させているのかについて調べました。

共添加したZnには価数揺動がないため、Mnの価数を知ることが重要です。また、ドープ元素の周囲は並進対称性が破れており、周期的な構造を仮定した従来の結晶構造解析よりも局所構造解析の方が適しています。そこで、大型放射光施設SPring-8の原子力機構専用ビームラインであるBL14B1を利用してX線吸収微細構造(XAFS)の測定を行いました。

図5-13にXAFSの実験結果を示します。まず、共添加Mnの価数は単独添加した場合と異なり+二価となっていました。更に母相とは価数の異なるイオンがドープされることでビスマスサイトの構造も変化した結果、極性を持った構造欠陥が形成されることが分かりました。この構造欠陥は電場を印加した際にドメイン反転の起点となり、図5-14に示すような欠陥誘起型の分極反転がビスマスフェライトで起こり、大きな自発分極を有する良質の強誘電体へと特性が向上します。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(No.21560877)「量子ビームを用いた強誘電体ナノ構造体の作製」の成果の一部です。



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