5-5 アルミニウムを主原料とする水素貯蔵合金を開発

−軽量な水素貯蔵合金の実現に向けて−

図5-17 放射光その場観察により得られたAl2Cu合金水素化反応時の粉末X線回折プロファイル

図5-17 放射光その場観察により得られたAlCu合金水素化反応時の粉末X線回折プロファイル

AlCuH水素化物から生じたブラッグピークをで示してあります。約60秒後から水素化物が生成し始めていることが分かりました。

 

図5-18 Al2CuHの結晶構造

図5-18 AlCuHの結晶構造

合成に成功した新規水素化物AlCuHはAlCu合金の金属格子の隙間に水素原子が入った侵入型水素化物であることが、実験と理論計算から明らかになりました。

水素を利用したクリーンエネルギー社会の実現に向けた課題のひとつに、水素の貯蔵方法の問題があります。軽量で安価なアルミニウム(Al)は水素貯蔵材料の原料として有望と考えられ、錯体水素化物と呼ばれる物質群を対象に研究が進められてきていますが、実用に適した材料はまだ見つかっていません。多くの金属や合金は錯体水素化物とは性質の異なる、繰り返し水素の吸放出可能な侵入型水素化物を形成することが知られていますが、Alを主原料とする侵入型水素化物はこれまで合成できないと考えられていました。本研究では従来にない高温高圧を実現する技術を用いて、Alを主原料とする侵入型の水素化物を合成することを目的としました。

Alと銅(Cu)の合金であるAlCu合金の粉末を高温高圧水素流体と直接反応させることで侵入型水素化物の合成を試みました。高温高圧発生と放射光その場観察実験は、大型放射光施設SPring-8のビームラインBL14B1に設置されたマルチアンビルプレスと呼ばれる高圧装置を用いて行いました。温度と圧力を変化させながら放射光その場観察により試料の様子を観察することで、水素化反応の有無を調べました。

図5-17はAlCu合金が水素化される様子を放射光その場観察で調べた結果です。約800 ℃,10 GPaに到達後約60秒経過すると、で示した位置に新しいピークが出現しました。これはAlCu合金が水素化されたことを示しています。高温高圧下で合成された水素化物AlCuHは常温常圧に回収することができました。回収された試料の分析と第一原理計算から結晶構造を調べたところ、図5-18に示すようなAlCuの金属格子の隙間に水素が入った侵入型水素化物が形成されていることが明らかとなりました。また第一原理計算から水素原子と金属との結合状態を解析した結果も、この水素化物が侵入型の水素化物であることを強く支持するものでした。

本研究によってAlを主原料とする侵入型の水素化物が合成できることが明らかになりました。本成果はAlを主原料とする軽量で安価な水素貯蔵技術を実現するためのブレークスルーをもたらすものです。

本研究は、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構からの受託研究「燃料電池自動車用水素貯蔵材料に関する調査研究」、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(No.25220911)「高密度水素化物の材料科学−水素の結合自由度を利用したハイドライド・ギャップの克服」及び(No. 25420725) 「多様な量子ビームその場観察技術を用いた新規アルミニウム合金水素化物の探索」の成果の一部です。



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