9-2 中性子回折で超伝導導体内の素線の歪状態を調べる

−ITER用超伝導導体の性能向上の礎−

図9-4 ITER CS導体の構造

拡大図(361KB)

図9-4 ITER CS導体の構造

導体は撚線とジャケットから構成されます。撚線は5回の撚り合わせにより作られます。

 

図9-5 性能試験後の撚線の変形

図9-5 性能試験後の撚線の変形

サンプルを試験後に解体し、撚線の変形を観察した結果です。

 

図9-6 中性子回折による歪の評価

図9-6 中性子回折による歪の評価

中性子はブラック条件を満たすと回折します。結晶の間隔が変化すると回折する中性子の波長が変化するため、歪を評価することが可能となります。

国際熱核融合実験炉(ITER)中心ソレノイド(CS)導体(図9-4)は、磁場13 T,電流45 kAで運転され、導体1 m当たり50 tの電磁力に6万回耐えることが求められます。短尺試験の結果から、電磁力の繰り返し回数に比例して、性能が低下する現象が発見され、要求される性能を満足できないと予想されました。設計改良を進めるにあたり、導体性能の劣化機構を解明することが求められました。

CS導体に使用されるNbSn素線は歪に敏感で、歪が加わると簡単に劣化します。そこで、試験後のサンプルを解体し、撚線を観察しました。図9-5の結果から、素線に大きな電磁力がかかる側(高電磁力側)ではなく、反対側の隙間が生じる側(低電磁力側)で素線が大きく変形していました。従来、考えられてきた物理機構は、電磁力が撚線断面の横方向に重畳され、素線間の接触が支点(約5 mm)となる高電磁力側の短周期の曲げでした。観察した変形から考察した結果、ジャケットと撚線の熱収縮の差によって撚線が圧縮力を受け、電磁力によって生じた隙間により素線同士の支持が弱くなり、素線が座屈するという物理機構を考案しました。

観察結果から低電磁力側の曲げ歪は約0.6%と評価しましたが、従来の物理機構に基づく高電磁力側の曲げ歪は評価できず、定量的な歪の評価法が必要でした。そこで、中性子回折による歪評価法に着目し、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の工学材料回折装置を用いて曲げ歪を評価しました。透過性が高い中性子を用いても、厚いジャケットによる減衰のため、得られる信号が不十分でしたが、ノイズの低減等の対策を行い、NbSn素線の回折ピークの観測に成功しました。その結果、図9-6に示す回折プロファイルの変化から、平均的な曲げ歪として、高電磁力側で0.32%、低電磁力側で0.63%の曲げ歪が発生していることが分かりました。これより、高電磁力側の短周期曲げが支配的ではないことが明らかになり、低電磁力側での曲げ歪の評価では、中性子回折による結果と目視による結果が一致しました。

曲げのピッチを短くすることで曲げ剛性が大きくなり、座屈を防ぐことができるため、撚りピッチを最適化することで撚線の変形を防止することができます。この知見に基づいて、撚りピッチを改良したCS導体は、要求される6万回の運転にも耐えることが実証されました。



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