1-9 鉄分を溶かして指定廃棄物基準以下に

−セシウムの化学状態を解明し効率的に除去することに成功−

図1-22 下水汚泥焼却灰の(a)電子顕微鏡写真,(b)焼却灰全体の元素組成(酸化物換算),(c)下水汚泥焼却灰を粉砕した後に塩酸溶液で処理して得た残渣の元素組成
拡大図(128KB)

図1-22 下水汚泥焼却灰の(a)電子顕微鏡写真,(b)焼却灰全体の元素組成(酸化物換算),(c)下水汚泥焼却灰を粉砕した後に塩酸溶液で処理して得た残渣の元素組成

微細粒子が凝集した粒子((a)の左にある粒子)に鉄が含まれています。その鉄を全て溶かすことによって、汚泥焼却灰の137Cs濃度が23000 Bq/kgから4800 Bq/kgに減少しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後、東日本各地の下水処理場で、放射性セシウム(Cs)に汚染した下水汚泥焼却灰(汚泥焼却灰)が大量に発生しました。そのほとんどは現在も各地の下水処理場に保管されています。このうち放射性Cs濃度が1 kgあたり8000 Bq(基準値)を超えるものは、特別な管理が必要な指定廃棄物とされています。汚泥焼却灰の放射性Csによる汚染は世界初の事例であるため、汚染した汚泥焼却灰の処理処分方策の策定に必要な科学的知識が全くありませんでした。

汚泥焼却灰はケイ素とリンを最も多く含み、アルミニウム,鉄も多く含みます(図1-22(a))。汚泥焼却灰は、天然の鉱物(石英,長石)と、汚泥の焼却によって生成したと思われる微細な粒子が凝集した大きな粒子の2種類からなります(図1-22(b))。この大きな凝集粒子は、酸化鉄,リン酸塩鉱物のほかに二酸化ケイ素と考えられる成分(以下、二酸化ケイ素)からなります。私たちは、基準値を超える放射性Csを含む実際の汚泥焼却灰を様々な種類・濃度の酸溶液に入れ、溶解する放射性Csと汚泥焼却灰の主要成分元素を分析し、汚泥焼却灰のどの鉱物に放射性Csが含まれているかを調べました。その結果、放射性Csの数%は水に溶けやすい塩として含まれ、約10%がケイ酸塩(石英,長石,二酸化ケイ素)に、残りが酸化鉄に含まれることが分かりました。一部の酸化鉄は酸溶液に非常に溶けにくく、酸溶液で処理した後の残渣に鉄が残っていると、残渣の放射性Cs濃度は基準値以下に低下しませんでした。これは、二酸化ケイ素が骨格を作る数ミクロンメートルの粒子の内部にそのような酸化鉄があり、そこまで酸溶液が到達しないためでした。そこで、汚泥焼却灰をあらかじめ数百ナノメートルに粉砕した後に塩酸溶液中で加熱することで、ほぼ全ての酸化鉄を溶解することに成功しました(図1-22(c))。鉄がなくなった結果、残渣物(ケイ酸塩)の放射性Cs濃度は基準値以下に低下しました。また、残渣物に含まれる放射性Csは、加熱した純水や海水に長期間浸しても、全く溶け出さないことを確認しました。

これらの結果は、1Fから放出された放射性Csなどを含む指定廃棄物の適切な処理と、その容積を減少させることに大きく貢献するものと期待されます。



| | | | |