3-4 金属中の磁気・電気の流れを切り替える

−原子力分野での熱電発電利用に向けて−

図3-7 スピンホール効果の概念図
拡大図(165KB)

図3-7 スピンホール効果の概念図

(a)磁気の流れが電気の流れに変換される様子です。(b)電子同士の反発しあう力によって電圧の符号が反転する様子です。図(a)中央の赤色の部分と図(b)中央の黄色の部分は、電子間相互作用によって電子分布の広がりが変化したことを模式的に表しています。電子間相互作用自体は物質によって決まっているもので変えられませんが、電場や光によって同様な電子分布の変化を作り出せる可能性があります。したがって、スピン流によって引き起こされた電流の向きが、電場や光によって制御できることが期待されます。図中の矢印の付いた球全体が電子で、中心の球が電荷、矢印が磁気(スピン)を表しています。矢印の頭と尾をN極やS極として考えることもできます。

 


近年、電子の電荷の流れである電流の代わりに、電子の磁気の流れであるスピン流を利用するスピントロニクスが次世代の省エネルギー電子デバイスとして期待されています。このスピントロニクスの実用化には、スピン流を電流に、あるいは電流をスピン流に変換する「スピンホール効果」(図3-7)を用いてスピン流を制御することが重要な課題となっています。

本研究では、極わずかにイリジウム(Ir)を添加した銅のスピンホール効果で生じる電圧の符号に着目して理論研究を行いました。この物質の測定は既に行われていますが、これまでの密度汎関数法(結晶を構成する原子と構造を基に、全ての物理量が電子密度の関数で表されるとして結晶の電子状態を計算する手法)を用いた理論研究では、実際の実験で表れた符号とは異なる結果しか得られませんでした。そこで私たちは、電子間相互作用という電子同士が互いに反発しあう力を計算に取り込むことで、実験と理論との食い違いを解決できるのではないかと考えました。

まず、私たちは密度汎関数法を用いてIrを添加した銅の電子状態を求め、Irとその周りを取り囲む銅との結びつきを推定しました。さらに、電子間相互作用のある系の物理量を求める数値計算手法である量子モンテカルロ法を用いて、Ir上の電子相互作用を取り込んだ計算を行いました。この方法の長所は、それまでの密度汎関数法では取り扱うことができない、Ir原子のスピンや軌道に関する状態の複雑な組み合わせを取り扱える点にあります。その結果、電子間相互作用によってIr上の電子配置が変化するため、スピンホール効果によって生じた電圧の符号が正から負に反転し、実験と一致した結果が得られることが分かりました。

本研究で得られた結果と確立した計算手法を駆使すれば、スピンホール効果を増強できる可能性があります。さらに研究が進展すれば、磁石と金属の積層構造に温度勾配を与えると発電する「スピン熱電発電」を原子力分野へ応用し、原子炉や放射性廃棄物からの排熱を電気に変換して利用することが期待されます。



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