5-12 高感度かつ高精度に中性子の二次元分布を計る

−He-3ガスを用いた新方式の二次元検出器を開発−

図5-30 個別読み出し法,光信号伝送を用いたガス型二次元中性子検出器

図5-30 個別読み出し法,光信号伝送を用いたガス型二次元中性子検出器

検出器ヘッド部とデータ収集系が光ファイバでつながっています。光ファイバによって長距離信号伝送を可能にし、さらに検出器ヘッド部とデータ収集系を電気的に絶縁しています。

 

図5-31 中性子による試験結果(a)計数率特性(b)位置分解能特性
拡大図(115KB)

図5-31 中性子による試験結果(a)計数率特性(b)位置分解能特性

原子炉からの定常中性子ビームによって210 kcpsまでの直線性を持つ計数率特性、約1.0 mm角の中性子ビームによって位置分解能1.89 mm半値幅を確認しました。

 


J-PARCで行われている、大強度中性子パルスを用いた散乱実験で使用するための高性能He-3ガス型二次元中性子検出器システムを開発しました(図5-30)。開発したシステムは検出感度80%,計数率数百kcps,位置分解能2 mm半値幅(0.85 mm標準偏差)等の優れた性能を同時に満たすことができる唯一の二次元中性子検出器です。

一般的に二次元中性子検出器では、位置決めのために縦軸,横軸方向に信号線が多数配置されています。軸ごとにまとめて信号処理する方法が従来広く使われてきましたが、本検出器では個別読み出し法を新たに開発し、全ての信号線からの微弱電気パルスを個々に増幅・波形整形・波高弁別することで中性子の入射位置を高速でしかも高位置分解能に決定しています。検出器の感度を上げるためには、ガスの圧力を上げる必要がありますが、圧力を上げると中性子による信号が小さくなり雑音との識別が困難になるため、これまで高感度かつ高速,高位置分解能な二次元中性子検出器はありませんでした。私たちは、個別読み出し法に特化した高密度マルチワイヤ素子,圧力容器及び多チャンネル電子回路基板を開発し、検出器の低雑音化を実現することでこの課題を克服しました。

J-PARCのような大型実験施設では、試料照射室からデータ収集室までの信号伝送距離が数十mになり、従来の電気信号線では電磁波による雑音が生じやすいという問題もありました。このため、本検出器では新たに光信号伝送方式を採用しています。電磁波の影響を受けにくい光ファイバを用いることで低雑音な長距離信号伝送が容易になるだけでなく、検出器ヘッド部とデータ収集系が電気的に絶縁されるという特徴も持っています。

開発した検出器の有感面積は128×128 mm2,ピクセルサイズは0.5×0.5 mm2です。市販の検出器はピクセルサイズ2.5×2.5 mm2で、計数率が数kcps,検出感度50%以下の性能ですが、本検出器は200 kcps以上の計数率,1.9 mm半値幅以下の位置分解能で動作することを確認しました(図5-31)。また、圧力容器に充てんするガスを8気圧にすることで80%以上の検出感度を実現することができます。

今回の検出器開発によって、J-PARCの大強度中性子パルスを用いた高性能な中性子散乱実験が可能になります。高精度かつ短時間に物質の構造解析が可能になることで、例えば表面科学の分野では、斜入射中性子小角散乱法を用いた薄膜中の面内構造の解析に役立つことが期待されます。



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