5-3 放射光でマクロ磁性を原子レベルに切り分ける

−内殻吸収磁気円二色性による元素ごとの磁化測定−

図5-10 内殻吸収磁気円二色性測定の概念図

図5-10 内殻吸収磁気円二色性測定の概念図

外部磁場により試料を磁化させ、その磁化方向に対して平行または反平行に左・右円偏光をそれぞれ照射します。そのときの光吸収強度を測定し、その差を取ったものがXMCDです。

 

図5-11 UCoAlのU 4d-5f (N4,5)とCo 2p-3d(L2,3)吸収端での実験スペクトル

図5-11 UCoAlのU 4d-5f (N4,5)とCo 2p-3d(L2,3)吸収端での実験スペクトル

(a)XAS,(b)XMCDです。温度は5.5 K,磁場7 Tです。については本文を参照してください。

 

図5-12 UとCoサイトでのXMCD強度の磁場依存性

図5-12 UとCoサイトでのXMCD強度の磁場依存性

図5-11(b)ので示したXMCD強度の磁場による変化の様子で、UとCoの元素ごとの磁化曲線に対応します。測定温度は25 Kと5.5 Kです。

 


磁石の性質は、磁性元素と呼ばれる遷移金属元素や希土類元素、そしてアクチノイド元素が担っています。アクチノイド元素は放射性元素であるため応用は困難ですが、実に多彩な磁性を示します。

ウラン(U)とコバルト(Co)の二つの磁性元素とアルミニウム(Al)により構成されたUCoAlは、低温において磁場(H)を印加すると、常磁性から強磁性に転移(メタ磁性転移)します。このメタ磁性転移機構の解明には、UサイトとCoサイトそれぞれの磁気的性質を把握することが重要です。

軟X線内殻吸収磁気円二色性(XMCD)とは、左・右円偏光に対する吸収 (XAS)強度の差として定義され(図5-10)、原理的に元素及び電子軌道選択性を有し、その強度は対象元素の持つ磁気モーメントの大きさに比例します。

UCoAl試料は先端基礎研究センターにて育成されました。実験は大型放射光施設SPring-8のBL23SUで行いました。図5-11にUCoAlのU 4d-5f(N4,5)及びCo 2p-3d(L2,3)吸収端でのXASとXMCDスペクトルを示します。778 eVのピークはU N4 とCo L3 が重なっており、両元素の情報が混じっています。一方、735 eV(U N5)と795 eV(Co L2)のピーク(図5-11(b)の)からは、UサイトとCoサイトの磁性情報を個別に抜き出すことができます。

図5-12に、温度T = 5.5 K,25 Kで測定したUサイトとCoサイトにおけるXMCD強度(磁気モーメント)の磁場依存性を示します。25 Kでは両サイトともに同様な振る舞いを示します(線)。5.5 Kでは0.7 Tで急峻なメタ磁性転移が両サイトで観測されています。そして、0.7 T以上での磁場に対する磁気モーメントの増加率(傾き)は、Coサイトの方がUサイトよりも小さくなっていることが分かります(線と線)。また、25 Kから5.5 Kになったときの傾きは、 Uサイトではほぼ同じ(線と線)ですが、Coサイトでは小さくなっています(線と線)。つまり、UサイトよりCoサイトの傾きの方が強い温度依存性を示しています。これまでUCoAlの磁性は、U元素が支配していると考えられてきましたが、元素別に磁性を調べることで、Co元素の磁性への寄与の重要性を明確に示すことができました。これは、ウラン化合物の示す強磁性のメカニズム理解に資する成果です。



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