5-6 従来膜を凌駕するグラフト型電解質膜の燃料電池特性

−階層構造の解析から明らかにした高イオン伝導性の起源−

図5-17 グラフト型電解質膜のイオン伝導度

図5-17 グラフト型電解質膜のイオン伝導度

グラフト型電解質膜のイオン伝導度はイオン交換容量とともに上昇し、2.9 mmol/gにおいて最大値13 mS/cmに達しました。

 

図5-18 グラフト型電解質膜の燃料電池特性

図5-18 グラフト型電解質膜の燃料電池特性

グラフト型電解質膜を用いた燃料電池の最大出力密度は、1085 mW/cm2に達しました。これはナフィオンの場合の3倍以上に相当する非常に高い性能です。

 

図5-19 グラフト型電解質膜の階層構造

図5-19 グラフト型電解質膜の階層構造

小角X線散乱測定により、結晶ラメラの間隔(相関長1)と結晶相の間隔(相関長2)を求めることができました。高いイオン交換容量を持つ電解質膜では、イオン伝導性を担うポリスチレンスルホン酸グラフト相が結晶相の間隙に新たに形成されるため、水分子の少ない低RH条件下でも高い電池出力が得られることが明らかになりました。

 


固体高分子型燃料電池(PEFC)は、次世代のクリーンなエネルギー変換システムとして自動車の電源などへの応用が期待されています。PEFCの中枢部材は、イオン伝導性を有する高分子電解質膜です。イオン伝導には水分子が必要なことから、出力密度が低下する高温(80 ℃以上),低湿度(相対湿度(RH)30%程度)の環境下でも高いイオン伝導性を持つ電解質膜の開発が急がれています。私たちは、放射線グラフト重合法を駆使することで新規高性能電解質膜の研究開発を進めています。この手法の特長は、グラフト重合の条件に応じて電解質膜のイオン交換容量(IEC)を広範囲で制御できることです。

エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)を基材として、イオン伝導性のポリスチレンスルホン酸をグラフト鎖に持つ電解質膜を作製できました。グラフト率の上昇とともに、IECは1.3から2.9 mmol/gに増加することで、30%RHと低湿度条件で13 mS/cmと高いイオン伝導性が得られました(図5-17)。これは代表的な燃料電池膜であるナフィオン(Nafion(R) 212)の9.1 mS/cmを大きく上回る値です。

IECが2.4 mmol/gのグラフト型電解質膜を用いてPEFC単層セルを作製し、その発電特性を調べました。80 ℃,30%RHという含水が抑制される環境下にもかかわらず、最大出力密度は1085 mW/cm2に達しました(図5-18)。これはナフィオンを用いたPEFCセルの約3倍という極めて高い出力性能です。

このような優れた膜特性の発現機構に迫るため、小角X線散乱(SAXS)法によって、グラフト型電解質膜における結晶相やイオンチャンネル相などの階層構造を解析しました。SAXSプロファイルでは、相関長1 = 19〜29 nm及び2 = 225〜300 nmの位置に特徴的なピークが観察されました。前者のピークはラメラ結晶間の間隔,後者のピークはラメラ結晶を含む結晶領域の間隔に由来すると考えられます(図5-19)。2はIECとともに上昇傾向を示しますが、2.4 mmol/g以上になると低下しました。これは電解質膜内で相分離が生じた結果であると考えられます。すなわち図5-19に示すように、高IEC電解質膜では、イオンチャンネルを形成するポリスチレンスルホン酸グラフト相が結晶相の間隙に形成され、結晶相は凝縮するので2は低下したと解釈できます。その結果、結晶相間のグラフト相はイオン伝導経路として機能するため、低RH環境での水不足の状態でも、高IEC電解質膜は高いイオン伝導性を維持できることが明らかになりました。



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