8-13 マイクロ流路を利用してプルトニウムの速度定数を求める

−マイクロ化学チップが拓くプルトニウムの分離・分析化学−

図8-29 Puの抽出に使用したガラス製マイクロ化学チップ

図8-29 Puの抽出に使用したガラス製マイクロ化学チップ

マイクロ流路の幅は100 μm,深さは40 μmです。

 

図8-30 接触時間によるPuの抽出率の変化

図8-30 接触時間によるPuの抽出率の変化

Puの抽出率は、水相と有機相の接触時間が長くなるほど高くなり、本試験では、接触時間が4.8 秒のときに最も高い抽出率82%を示しました。

 

図8-31 マイクロ化学チップにおけるPuの抽出モデル

図8-31 マイクロ化学チップにおけるPuの抽出モデル

水相中のPu4+が界面まで拡散し、界面でPu4+がTBPと錯体を形成して抽出され、抽出された錯体が有機相へ拡散するモデルとしました。図中のk は、Pu4+とTBPの抽出にかかわる反応の速度定数になります。

 


使用済燃料再処理では、硝酸とリン酸トリブチル(TBP)の抽出系が利用されています。この抽出系におけるプルトニウム(Pu)の速度定数は、水相と有機相の接触時間が短い遠心抽出器のような装置の抽出プロセスを設計するために重要です。速度定数を求めるためによく用いられている単一液滴を利用した方法では、液滴とその周囲の液体における比界面積が小さく、そこでの反応が制限されるといった問題がありました。そこで私たちは、大きな比界面積を安定して得ることができるマイクロ化学チップを利用して、抽出にかかわるPuの速度定数の評価を試みました。

マイクロ化学チップは、図8-29に示すように、数cm角のガラス基板に数百μm程度の流路を刻んだものです。このような微小な領域では、流体の体積に対して界面積が大きくなり、効率的な抽出ができます。また、流体の流れは、乱れのない層状態を容易に保持できるため、流量等の条件を調整して水相と有機相を接触させることで、安定した界面を得ることができます。

本研究では、水相はPuを含む3M硝酸水溶液,有機相はn-ドデカンで30%に希釈したTBPを使用しました。両相をマイクロ化学チップ内へ流して、流路内で形成される界面を観察した結果、流量が5〜20 μL/分の範囲で、安定な界面が形成されることが分かりました。Puの抽出率は、この条件で流量及び流路長を調整することで接触時間を変化させ、マイクロ化学チップから回収した試料中のPu濃度を測定して求めました。その結果、図8-30に示すように、1秒以下の短い時間間隔における抽出率の変化が観測されました。この結果をもとに速度定数を評価するため、図8-31に示す水相及び有機相におけるPuの物質拡散と界面における反応からなる抽出モデルを構築しました。Puの速度定数k は、実験で得られた抽出率の測定値をモデルから導出した理論式に最小二乗法でフィッティングさせて求めました。

以上の結果から、抽出にかかわるPuの速度定数を評価でき、その実験方法としてマイクロ化学チップの適用が有効であることが分かりました。ここで得られた結果は、抽出装置のプロセス設計における貴重なデータとして利用されることが期待されます。また、マイクロ化学チップによる抽出は、分析装置のダウンサイジングや廃液を大幅に低減できるため、今後、Pu等の放射性元素の分離,分析へも応用が期待されます。



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