1-14 粘土鉱物におけるセシウムの吸着状態を解明

−第一原理計算に基づいたシミュレーションによる解析−

図1-34 第一原理計算に基づいたメタダイナミクスシミュレーションにより求めた
拡大図(311KB)

図1-34 第一原理計算に基づいたメタダイナミクスシミュレーションにより求めた2:1型3八面体粘土鉱物の
層間における(a)Na+と(b)Cs+の吸着状態を表す自由エネルギー面ΔF とその極小点に対応した吸着構造

図の縦軸と横軸は、それぞれ金属イオンM一つあたりの水分子の酸素の配位数n MOwと四面体シートの底面酸素Obの配位数n MObです。これらの配位数はそれぞれ金属イオンの水分子と粘土層への親和性の指標とみなすことができます。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故により多量の放射性セシウム(Cs)が環境中に放出されました。地表に落ちた放射性Csは、現在も表層土壌に留まり放射線を放出しています。住民の帰還のために大規模な除染作業が続けられ、放射能は低減していますが、除染により発生した多量の汚染土壌の処理が新たな問題となっています。

土壌中のCsは、主に風化黒雲母に強く吸着されていることが分かってきています。そこで、風化黒雲母からCsを分離できれば、汚染土壌の減容が可能となります。しかしながら、Csが風化黒雲母でのどこに、またどのように吸着しているのかについては未知の部分が多く、効率的,経済的な分離法はまだ確立されていません。風化黒雲母をはじめとする粘土鉱物におけるCsの吸着状態を解明することにより、効果的な分離法の開発が可能になると期待されます。

黒雲母などの雲母粘土鉱物は、風化により層間から陽イオンの一部が溶脱し、代わりに層間に水分子が入って膨潤することが知られています。したがって、風化黒雲母へのCsの吸着及び固定には層間水が深くかかわっていると考えられます。そこで私たちは、スーパーコンピュータを駆使して、経験パラメータを用いない第一原理計算に基づいたメタダイナミクスシミュレーションにより、黒雲母などが属している2:1型粘土鉱物の膨潤した層間でのアルカリ金属イオンの吸着状態を系統的に調べました。その結果、骨格構造が同じ2:1型粘土鉱物であっても、3八面体型では、最も安定な吸着状態において、Na+などの軽アルカリ金属イオンには層間水のみが直接配位する(図1-34(a)破線内)が、Cs+などの重アルカリ金属イオンには底面酸素が直接配位し(図1-34(b)破線内)、軽アルカリイオンとは異なる吸着状態をとることが分かりました。一方、2八面体型では、八面体シートに空サイトがあるため粘土層表面の電子状態が変化し、3八面体型で見られた各アルカリ金属イオンに特有の吸着状態をとらなくなることも分かりました。この結果は、特定の組成を持つ粘土鉱物がCsを選択的に吸着することを示しており、福島の粘土鉱物を用いたCsの吸着実験の結果と良く対応しています。

第一原理計算を基にしたシミュレーションにより実験では調べるのが困難な粘土鉱物の層間での陽イオンと層間水に関する詳細な情報が得られるようになったことから、より効果的で経済的なCsの分離法の開発が加速されると期待されます。



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