1-15 森林からのセシウムの移行を抑制する新技術

−高分子と粘土を用いて、穏やかに里山を再生−

図1-35 Cs移行抑制の模式図
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図1-35 Cs移行抑制の模式図

ポリイオンコンプレックス(PIC)とベントナイト(粘土)を用いて、森林の斜面でのCsの移行を抑制します(移行抑制エリア)。

 

図1-36 福島県飯舘村での実証試験の手順

図1-36 福島県飯舘村での実証試験の手順

ベントナイトの散布の有無が異なる腐葉土の下方に、PIC(+は正電荷過剰PIC,−は負電荷過剰PIC)の散布の有無が異なる4本のレーンを交互に設置しました。

 

図1-37 (a)3ヶ月経過後の斜面の放射性Cs濃度の分布と(b)斜面土壌のサンプリングの様子
拡大図(158KB)

図1-37 (a)3ヶ月経過後の斜面の放射性Cs濃度の分布と(b)斜面土壌のサンプリングの様子

腐葉土の下方の斜面の4本のレーンのそれぞれに対して、上(1 m),中(2.5 m),下(4 m)の3点での放射性Csの存在割合(%)を示した棒グラフ及び各点で土壌コア試料を採取している様子です。

 


森林での放射性セシウム(Cs)の多くは、落葉層と土壌層の中間に位置する腐葉土(落葉などが生物分解されて土状になったもの)に存在します。腐葉土中で有機物と結合した状態のCsは、有機物の分解によって水に溶け出すことで、一部の植物に吸収される可能性があります。さらに傾斜地では、降雨によってCsがより低い場所に移動することが確認されており、除染を終えた生活圏にも流出して、再汚染が起こることも懸念されます。

森林から生活圏への放射性Csの移行を抑制する新技術を、茨城大学,熊谷組グループ,原子力機構が共同で開発しました。この新技術は、ポリイオンと呼ばれる電荷を持つ高分子と粘土鉱物を用い、降雨などの自然の力を利用して、Csの移行を抑制します。食品添加物などに使われるポリイオンや粘土鉱物といった安全な物質を用い、森林生態系を破壊せず、穏やかに里山(人里に隣接した森林)を再生できる方法として、期待されています。福島県飯舘村などで実証試験を行い、森林の傾斜地での放射性Csの移行抑制に効果的であることを確認しました。

放射性Csを吸着するベントナイト(モンモリロナイトという鉱物を主成分とする粘土の総称)の粒子を腐葉土に散布すると、水に溶出しやすい形態(有機物結合態)のCsがベントナイトに吸着されることで、溶出しにくい形態(粘土固定態)に変化するため、植物への吸収が抑制できると期待されます。一方、Csを吸着したベントナイト粒子は、泥水に混じって低地に移行しますが、電荷をコントロールしたポリイオンコンプレックス(PIC)を用いることで、捕捉することができます。PICとは、反対電荷を持つポリイオンが静電力によって自己集合したゲル状の物質で、斜面に散布すると、その高い粘性によって、ベントナイト粒子が土壌粒子と一緒に散布場所に捕捉されます。また、ベントナイトの表面は負に帯電しているため、正電荷が過剰なPICによって、より効果的に捕捉・固定されます。さらに、正電荷過剰PICを散布した場所よりも低い場所に負電荷過剰PICを散布することで、ベントナイトに吸着されずに正電荷を残すCsを捕捉し、より確実にCsの移行を抑制できます(図1-35)。ベントナイトとPICの両方を散布した斜面では、より多くの放射性Csが上部に留まり、Cs移行が5分の1以下に抑制されることが確認されました(図1-36,図1-37)。

本研究は、参考文献の特許技術を森林用に応用・発展させたもので、2016年5月10日に茨城大学,熊谷組グループ,原子力機構の3者でプレスリリースしました。



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