5-1 大強度陽子ビームの高精度軌道コントロールを実現

−電流リップルを抑制した新しいパルス電源の開発−

図5-5 (a)パルス電源による台形型の励磁波形と(b)電源の回路方式で異なる電流波形の形成方法(チョッパ方式: 青,転流方式: 赤)

図5-5 (a)パルス電源による台形型の励磁波形と(b)電源の回路方式で異なる電流波形の形成方法(チョッパ方式: 青,転流方式: 赤)

(a)パルス電源による電磁石に励磁する台形型の電流波形を示しています。ビーム軌道を固定するためには、ビーム入射期間中の波形が平坦な形でかつノイズがないことが理想です。
(b)電源の回路方式において、チョッパ方式はスイッチ操作に起因した電流リップルが励磁波形に必ず生じます。しかし、転流方式ではスイッチ操作の回数を制限することができるため、電流リップルの発生を抑制することができます。

 

図5-6 (c)ビーム軌道の変位量と(d)発生したビームロス信号波形(550 kW大強度ビーム加速試験結果。チョッパ方式: 青,転流方式: 赤)

図5-6 (c)ビーム軌道の変位量と(d)発生したビームロス信号波形(550 kW大強度ビーム加速試験結果。チョッパ方式: 青,転流方式: 赤)

(c)ビーム軌道の振動はビーム入射期間中に最大5 mm発生していましたが、転流方式の電源ではビーム軌道の変位量がほぼゼロとなり、ビーム振動は発生していません。
(d)発生したビームロスが転流方式の電源を使用すると発生していないことを示しています。

 


J-PARCの3 GeVシンクロトロン加速器は、円形軌道のリングに入射した陽子を、周回を繰り返して3 GeVまで加速させ出射します。この入射と出射を25 Hzの速い繰り返しで行い、1 MWの大強度陽子ビームを生成します。この加速器の入射部では、パルス電磁石による台形型の励磁波形の平坦部分(図5-5(a))で入射ビームの軌道を固定し、大強度ビームの生成に必要な多くの粒子を周回ビームに合流させます。

これまでのパルス電源は、半導体スイッチのON/OFF操作の繰り返しにより励磁波形の形成を行うチョッパ方式を主回路に採用していました(図5-5(b)左)。この方式は任意な波形変更が可能であり、大強度ビームの加速試験において様々な入射パラメータを実現するなど非常に良い結果をもたらす一方で、スイッチ操作に起因した電流リップルが必ず発生します。その結果、近年、陽子ビーム強度が増加する過程で、励磁波形に生じる連続した電流リップルがビーム振動を誘発し(図5-6(c)青)、不安定になったビームが加速途中にビームロスを引き起こす事象が生じました(図5-6(d)青)。

そこで私たちは、コンデンサの充放電特性を利用する転流方式を採用すれば、電流の出力を切り替えるときのみスイッチ操作を行うため、電流リップルの発生回数を必然的に抑制することが可能であることに着目しました(図5-5(b)右)。転流方式の電源では、コンデンサの容量で電流波形の形状が限定されるため、様々な入射パラメータを必要とする3 GeVシンクロトロン加速器で採用するには、出力電流波形の調整方法が課題となります。特に、励磁波形の立ち上がり時間を変更すると、渦電流効果で平坦部に歪みが生じます。

今回私たちは、転流方式の基本となるコンデンサの容量を決定するため、負荷の特性を正確に把握して等価回路モデルを構築し、回路シミュレーションによる解析を実施しました。また、出力電流波形を調整することのできる新しい補正回路を考案し、高いフラットトップ平坦度を実現しました。さらに、電流リップルの低減を確実に実現するため、主回路の電流経路による高周波ノイズの低減に努めました。

これらの結果、様々な入射パラメータへの対応を可能にするとともに、振動がない高精度軌道コントロールを実現し(図5-6(c)赤)、ビームロスの大幅な低減を実証しました(図5-6(d)赤)。これにより、1 MW大強度陽子ビームの安定した利用運転の実現に見通しをつけました。



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