5-15 世界最高レベルの出力密度を持つ燃料電池を開発

−放射線グラフト重合法による高性能電解質膜生成−

図5-38 芳香族炭化水素電解質膜の合成スキーム

図5-38 芳香族炭化水素電解質膜の合成スキーム

耐放射線性を持つ芳香族炭化水素高分子(PEEK)膜にγ線を照射し、スチレンスルホン酸エチル(ETSS)を放射線グラフト重合しました。さらに、加水分解反応により、グラフト鎖の一部をスルホン酸基に変換することで、プロトン伝導性を付与しました。

 

図5-39 80 ℃、異なる加湿下における燃料電池試験結果比較

図5-39 80 ℃、異なる加湿下における燃料電池試験結果比較

開発膜は性能低下が問題となる低加湿条件においても高い電力密度を維持し、市販のNafion膜の2.5倍以上の電力密度を達成できました。

 


燃料電池自動車や家庭用燃料電池システムの動力源となる固体高分子型燃料電池では、電池の陽極と陰極を隔てる役割を担う電解質膜にイオン伝導性を持つ高分子膜が用いられています。燃料電池の発電性能は、電解質膜の特性に左右されることから、電解質膜の研究開発が活発に進められています。特に単位面積あたり取り出すことができる電力(電力密度)の大きい電解質膜が求められています。

現在市販され、燃料電池の電解質膜として広く利用されているフッ素含有高分子のNafion膜は、電力密度の指針となるプロトン伝導性は高いものの、ガスバリア性に問題があるため、実際の動作環境に近い80 ℃、低加湿条件における電力密度の低下が懸念されています。そこで、耐放射線性とガスバリア性に優れた芳香族炭化水素高分子であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を基材膜に用い、高分子基材の性能を損なわずに新たな機能性を付与できる放射線グラフト重合技術を活用することで、低加湿下でも高電力密度を維持できるPEEKグラフト電解質膜の開発を試みました。

PEEK膜へのプロトン伝導性付与においては、グラフト重合後の加水分解反応によってプロトン伝導性のスルホン酸基に変換可能なスチレンスルホン酸エチル(ETSS)という化合物をモノマーに選択しました(図5-38)。ETSSのPEEK膜へのグラフト重合の報告例がほとんどないことから、種々の条件を検討しました。その結果、溶媒にジオキサンという有機化合物を用い、γ線照射したPEEK膜をETSS/ジオキサン溶液に浸漬することでグラフト重合が進行することを見いだし、PEEKグラフト電解質膜の作製に成功しました。

この電解質膜を用いて燃料電池試験を行い、Nafion膜と比較しました(図5-39)。一般的に発電性能の低下が懸念される低加湿条件(80 ℃,30%の相対湿度(RH))において、Nafion膜の最大値は、333 mW/cm2と100%RHと比べて約1/3にまで著しく低下したのに対し、PEEKグラフト電解質膜の電力密度は、100%RHと比較してもほとんど低下せず、これまでほとんど報告例のない世界最高レベル(800 mW/cm2以上)の電力密度826 mW/cm2を示しました。

開発したPEEKグラフト電解質膜は、燃料電池自動車などに適用可能な高性能高分子電解質膜として実用化が期待されています。



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