1-9 原子炉建屋内の汚染状況を調査する

−廃棄物の処理処分を加速するための詳細な放射化学分析−

図1-19 放射化学分析操作の流れ

図1-19 放射化学分析操作の流れ

がれき試料は、均一化するためボールミルによる粉砕を行います。均一化した試料は小分けし、核種ごとに適した前処理法・分離法を行い、放射化学分析を行います。

 

図1-20 放射能濃度測定結果

図1-20 放射能濃度測定結果

137Cs濃度に対する(a)90Sr濃度及び(b)238Pu濃度の関係を示しています(2011年3月11日に補正)。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F、1号機〜3号機を1F1〜1F3)の廃止措置に向け、今後発生するがれき等を含め、処理処分方策の整備が緊急の課題となっています。このためには、がれき等に付着した放射性核種の種類や濃度等の情報を明らかにし、事故により発生した廃棄物の性状を把握することが重要です。しかし、原子炉建屋内部に飛散した放射性核種の種類や濃度は十分に把握されておらず、処理処分を加速するためにも、詳細な放射能データが必要です。そこで私たちは、原子炉建屋内で採取されたがれきの放射化学分析を実施しました(図1-19)。

取得した放射能データのうち、検出された核種の例を図1-20に示します。ストロンチウム-90(90Sr)放射能濃度は、セシウム-137(137Cs)放射能濃度との相関係数が0.89であり、比例する傾向があることが分かりました。これは、測定が容易な137Csから直接放射能を測定することが困難な90Srの放射能濃度が推定できる可能性を示しています。一方、プルトニウム-238(238Pu)は137Cs放射能濃度との相関係数が0.51であり、比例関係は明確ではなく、さらなる放射能データの蓄積が必要です。

分析により求めた90Sr/137Cs比は、(3.2±1.5)×10-3(1F1)、1.9×10-2(1F2)、(8.1±4.6)×10-4(1F3)でした。これは計算コード「ORIGEN2」により算出した炉内の燃料中の90Sr/137Cs比よりも1〜3桁程度小さい値でした。一方、分析により求めた238Pu/137Cs比は、(6.0±6.4)×10-8(1F1)、5.5×10-5(1F2)、(3.9±1.9)×10-7(1F3)でした。これは計算により求めた238Pu/137Cs比よりも3〜6桁程度小さい値でした。これらの結果から、燃料からの原子炉建屋への移行率は、238Pu<90Sr<137Csの順となることが示唆されます。

これらのデータは、原子炉建屋内部の放射能量の推定だけでなく、作業者の被ばく評価や環境影響評価等に対しても活用が期待されています。今後も、事故廃棄物の詳細な放射化学分析を行い、処理処分に向けた放射能データを蓄積していきます。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託研究「廃炉・汚染水対策事業費補助金(固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)」の成果の一部です。