10-2 強結合超流動の量子渦構造を計算し、室温超伝導の世界を覗く

−原子ガスの量子渦から見えてくる室温超伝導の世界−

図10-3

原子ガスをある一箇所に閉じ込め、レーザーを当ててかき混ぜる(左図)と、中央図のように、ガスのあちらこちらに渦(実験では、原子の分布密度を観察するため、渦は中央図のように球体にあいた穴のように見えます)が発生しますが、原子ガスが超流動状態にあると、渦周りの回転運動が量子化されるため、ある一定の回転の強さを持つ渦だけが現れます。この研究では、この渦の構造を最も精密な計算手法である第一原理計算により求めました。量子化された渦は、超流動や固体が示す超伝導に共通の現象であり、原子ガスの渦構造を研究することで超伝導の渦構造を予測することができます。原子ガスでは、極めて強い引力が原子間に働いており、この研究で得られた渦構造は、まだ見ぬ室温超伝導の渦の構造とほとんど一致すると考えられます。

「室温でもし超伝導が実現したら、産業革命を遥かに超える変革が起こる!」と言われてきましたが、実際、室温で電気抵抗がゼロになるということは、発電した電気エネルギーを損失ゼロで各家庭や工場へと運べるようになり、地球規模でのエネルギー伝送が可能になるだけでなく、世界中がリニアモーターカーで結ばれ、身近では、パソコンなどのOA機器の冷却ファンもなくなり、ノートパソコンの性能は今の超並列計算機を遥かに超えてしまうかもしれません。このように室温超伝導実現は私たちの生活を一変させてしまう可能性を秘めており、超伝導転移温度を室温まで上昇させるというテーマは当代科学者たちの見果てぬ夢とも言えましょう。

このいまだ実現していない夢の室温超伝導ですが、その超伝導状態を先取りして研究しようという、とても挑戦的な試みが最近、現実のものとなってきました。これは、2004年に実現されたフェルミ原子ガスの超流動が、室温超伝導に匹敵するほどの画期的な超流動状態だったからです。通常、超伝導は二つの電子がペアを形成することで超伝導状態へと転移しますが、その際、転移温度を決めるのは、そのペアを結びつける引力の強さであることが分かっています。フェルミ原子ガスでは、その引力の強さが極めて強く、超伝導体でその強さを実現すると、なんと1000K(室温を遥かに超える!)程度に匹敵するということが明らかにされました。この事実が分かると、次はその超流動状態とは一体どんなものなのか?という疑問が沸き起こりますが、そこで登場してくるのが量子渦です。量子渦は、超流動や超伝導という特異な流れの中で見られる最も重要な構造で、その構造が超流動や超伝導の性質の良し悪しを決定してしまいます。つまり、超流動も超伝導もその損失のない流れには限界がありますが、その限界を与えてしまうのが量子渦であり、その研究は超伝導の応用を考える際には避けて通れないものなのです。

本研究では、その量子渦の構造を第一原理計算を行うことで決定し、引力が弱い場合から強い極限(室温を遥かに超える超伝導)まで、その構造の変化を初めて示すことに成功しました。その結果、引力が弱い場合は、渦中心でもフェルミ原子の密度は渦の外側とほとんど変わらないのに対し、強い極限では、なんと、渦の中心にいるフェルミ原子の密度が極端に薄くなり、水を入れてバケツを思い切り回すと中心の水がなくなるのと同じような振る舞いを示すことが分かったのです。この結果は、実は超伝導電流を損失ゼロでたくさん流すという観点からは極めて有利であり、もし、室温超伝導が実現された場合、その電力輸送能力は基本的に優れている可能性が高く、今後の研究の進展が多いに期待されます。


●参考文献
Machida, M. et al., Structure of a Quantized Vortex near the BCS-BEC Crossover in Atomic Fermi Gases, Physical Review Letters, vol.94, no.14, 2005, p.140401-1-140401-4.


| | | | |