10-6 体積振動する複数気泡の位相特性と相互作用力

−未知の特徴周波数「遷移周波数」の存在を確認−

図10-8 体積振動し相互作用する2気泡の数値シミュレーション

図10-8 体積振動し相互作用する2気泡の数値シミュレーション

水中に沈む気泡に音波を照射すると、気泡は膨張・収縮、つまり体積振動を始めます。このような気泡が複数ある場合、気泡間には引力にも斥力にもなりうる相互作用力「二次音響放射圧」が働きます。この図は、引力が働く条件での気泡の振る舞いをコンピュータ・シミュレーションによって再現したものです。体積振動する二つの気泡が徐々に近づき合い、最後には衝突して合体する様が見られます(時間は左上から右下に進みます)。理論とシミュレーションを用いて気泡の振動位相を詳細に調べることにより、私たちはこの相互作用力の発生原理に関する新説を提唱するに至りました。

 

図10-9 二つの相互作用する気泡が持つ遷移周波数

図10-9 二つの相互作用する気泡が持つ遷移周波数

横軸は気泡間距離、縦軸は周波数を表します。図中の青線は共振周波数で、赤線が初めて見いだした特徴周波数「遷移周波数」です。通説では二次音響放射圧の方向の反転は共振周波数上で起こるとされますが、本研究の理論解析によれば、それは私たちの見いだした特徴周波数上で起こります。

気泡は人間にとって身近で親しみ深い存在です。水の入ったビンをひと振りするだけで、沢山の気泡を作り出し観察することができます。また、気泡は工学や医学など様々な分野に姿を現します。血管に流し込まれるミクロンサイズの気泡は超音波造影剤として利用され、急激に減圧された液体中に発生する気泡は原子力施設で多用される流体機械を損傷させるほどの破壊力を持ち、強い音の中で光る気泡は化学反応場として利用されます。また、白波をなす無数の気泡は地球環境に影響を与えていると言われます。

このように身近な存在でありながら、気泡にはまだ数多くの謎が残されています。私たちは最近、音の中で膨張・収縮(体積振動)し相互作用する複数の気泡(図10-8)の振動位相を調べることで、気泡が未だに知られていない特徴周波数を持つことを見いだしました(図10-9)。私たちはこの特徴周波数をさしあたり「遷移周波数」と呼んでいます。この特徴周波数は気泡を共振させずに振動位相を反転させる(例えば、入射音波と同相だったものを逆相に)性質を持つもので、共振を伴いながら振動位相を反転させる特徴周波数「共振周波数」とは本質的に異なるものです。

更に、この知見を基にして気泡を眺め直してみると幾つかの未解決問題が解決できることに気がつきました。その一つが、体積振動する気泡の間に働く相互作用力のメカニズムです。この力は気泡間の位相差に依存して方向が変わり、したがって条件に応じて引力にも斥力にもなり得ることが知られていますが、方向が変わる具体的なメカニズムに関してはまだ定説とされる解釈が存在しませんでした。私たちは理論解析により、見いだした遷移周波数こそが力の方向を決める要因であることを突き止めました。つまり、入射音波の周波数を変化させながら観察すると、その周波数が遷移周波数を通過する際に力の方向が反転するのです。この発見は、「力の方向は共振周波数上で反転する」とする100年来の通説に一石を投じるものです。

私たちは現在、遷移周波数の存在を疑いようのないものにするために様々な追加検討を行っています。ここで得た成果は、沢山の気泡が相互作用する系で観測される様々な現象、例えばキャビテーション気泡群の崩壊や音の局在化、気泡による安定な構造形成などを理解するための重要な道具となるものと考えています。

なお、本研究の一部は科研費 若手研究(B)を通じての文部科学省からのサポートの下に行われています。


●参考文献
Ida, M., Phase Properties and Interaction Force of Acoustically Interacting Bubbles: A Complementary Study of the Transition Frequency, Physics of Fluids, vol.17, no.9, 2005, p.097107-1-097107-13.


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