10-7 生物による金属イオンの様々な利用

−ゲノム塩基配列からの銅イオン配位タンパク質の推定−

図10-10 銅イオンの生体内での働き

図10-10 銅イオンの生体内での働き

 

図10-11 推定されたマルチ銅ブルー蛋白質の進化経路

図10-11 推定されたマルチ銅ブルー蛋白質の進化経路

 

図10-12 アミノ酸配列の解析により得られた系統樹と進化経路仮説

図10-12 アミノ酸配列の解析により得られた系統樹と進化経路仮説


靴の中に十円玉を入れておくと雑菌の繁殖を防いで足の臭いを抑えられることが生活の知恵として知られています。銅イオンは反応性に富むために活性酸素などの不安定分子を作り出してDNAなど生物にとって重要な分子を無差別に壊してしまうことから、単純な微生物にとっては強い毒なのです。しかし、生物は長い進化の歴史の中で、銅などの重金属を細胞外に排泄する仕組みや、壊れたDNAを修復する仕組みを作りだして、銅イオンに対する抵抗性を獲得してきました。更には、銅イオンの高い反応性を積極的に活用して、身体に必要な物質を作りだしたり、酸素や電子など生命の維持に重要な物質を輸送したりするようになりました。(図10-10)

私たちはこうした銅を利用する蛋白質の中から、マルチ銅ブルー蛋白質と呼ばれる蛋白質のグループに注目して、解析を行って来ました。マルチ銅ブルー蛋白質は、銅原子の特異な酸化還元能力を利用した蛋白質のグループで、ほぼすべての生物種が保有し、非常に重要で多様な機能を有しています。おもだった3つのグループについてみると、(1)「亜硝酸還元酵素」はバクテリアによる脱窒という自然環境の中での窒素の循環過程に、(2)「ラッカーゼ」「アスコルビン酸酸化酵素」は、それぞれ植物や真菌(カビやキノコ)の骨格の形成と分解や、DNA損傷などをもたらす酸化ストレスへの抵抗性に、(3)「セルロプラスミン」はヒトなど脊椎動物の血液中で酸素を運搬するヘモグロビンの形成にそれぞれかかわっています。

近年のヒトゲノムプロジェクトの完了に象徴されるゲノム解析の進展によって、ゲノム配列の情報が加速度的な勢いで蓄積されつつあります。これらの情報を有効に活用することで、マルチ銅ブルー蛋白質の進化経路を明らかにし、(図10-11,図10-12)更に、これまで知られていなかった新しいタイプのマルチ銅ブルー蛋白質([A],[B],[C])を見いだすことができました。

更に、最近、発見されたマルチ銅ブルー蛋白質についてその配列、構造、機能を広く俯瞰することで蛋白質が新しい機能を獲得してゆく「分子進化」の過程について考察を深めることができました。

今後、こうした銅などの金属イオンを結合する蛋白質の解析を進めていくことで、DNA修復などの放射線耐性に関連する新しい機能を持った蛋白質を見つけてゆきたいと考えています。


●参考文献
Nakamura, K. et al., Function and Molecular Evolution of Multicopper Blue Proteins, Cellular and Molecular Life Science, vol.62, 2005, p.2050-2066.


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