2-8 炭酸塩鉱物に保存された過去を読み解く

−地球化学環境の長期的変遷の推察−

図2-14 方解石のカソードルミネッセンス画像

図2-14 方解石のカソードルミネッセンス画像

方解石中の組成累帯構造は陰極線を照射することで観察できるカソードルミネッセンスによって確認できます。上図の場合には、結晶中に明るさが異なる箇所が認められ、明るさの異なるそれぞれの方解石は異なる化学環境を持った地下水から沈殿したと考えられます。図中の番号は分析箇所を示しています。

図2-15 方解石のカソードルミネッセンス画像

図2-15 方解石のカソードルミネッセンス画像

図は図2-14で示された各分析箇所における鉄及びウラン濃度に基づき、pHを8、9、10と仮定した場合に算出した酸化還元電位を示しています。斜線で示した分析箇所は明るいルミネッセンスを持つ箇所に対応します。

高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発では、天然環境中における物質の移動特性を把握する必要があります。地下水中における物質の移動特性は地下水の化学環境(pHや酸化還元電位など)に依存することから、地層処分システムの長期的な安全性を評価するためには、地下深部における地下水の地球化学環境の変遷を、数万年スケールで評価する手法の開発が重要な課題となります。

本研究では、方解石中の微量元素濃度から方解石沈殿時の酸化還元電位を推察することで、酸化還元電位の長期的な変遷を推察する手法を開発しました。方解石は沈殿過程において、地下水の地球化学環境の変化を保存している可能性があり、長期的な変遷を推察するための有効な指標となる可能性が指摘されています。このような化学環境の変遷は組成累帯構造として結晶中に保存されています(図2-14)。酸化還元電位は、酸化還元環境を反映し易い金属元素に注目し、方解石中の金属元素濃度から分配係数に基づいて沈殿時の溶液中の金属元素濃度を求め、その金属元素の酸化還元平衡式を仮定することで、方解石が沈殿した時点の地下水の酸化還元電位を推測できます。

本研究では、岐阜県東濃地域に分布する土岐花崗岩を対象として掘削したボーリング孔の岩芯から採取した方解石6試料を対象として、観察及び金属元素の定量分析を行いました。求めたウラン及び鉄の濃度に基づく酸化還元電位(Eh)は、pHを現在の地下水と同様の8と仮定した場合、約−270mVから−400mVである現在の東濃地域に分布する地下水の酸化還元電位とおおむね同じ値を示しました。また、仮定した条件下では、方解石の沈殿過程で酸化還元環境に変化が認められるものの、地下水中の酸化還元電位は、還元環境を保持していたことを示す結果となりました(図2-15)。

地下水の酸化還元電位について、その変遷を定量的に評価した研究例は世界的にも例がなく、本研究の成果は天然事象の理解や物質移動解析時のより現実的な条件設定などに貢献できるため、地層処分の安全評価において重要な知見となると考えられます。


●参考文献
水野崇ほか, 地下深部における地球化学的環境の長期的変遷−炭酸塩鉱物中の微量元素に基づく解析例−, 地球化学, vol.40, no.2, 2006, p.33-45.


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