12-4 現在・過去・未来の海を正しく予測

−LAMERを用いた放射性物質海洋拡散シミュレーション−

図12-7 東海沖で採取された表層海水中セシウム137(137Cs)及びプルトニウム239,240(239,240Pu)濃度の経年変化

図12-7 東海沖で採取された表層海水中セシウム137(137Cs)及びプルトニウム239,240(239,240Pu)濃度の経年変化

1945年から100年間の東海沖表層海水中137Cs(青)及び239,240Pu(赤)濃度経年変化をLAMERによって計算したものです。線が計算値、○印が私たちによる東海再処理施設周辺での環境モニタリングデータで、これらは良く一致していることが分かります。また、データのない過去,将来の濃度予測ができます。1は1954年頃のビキニ・エネウェトク環礁での核実験の影響、2は1978年、1980年の中国実験による局所的影響です。計算値の揺らぎ(特にPu)は、統計的なものであり、現象としてこのようなゆらぎが実際にあるわけではありません。

 

図12-8 LAMERによって算出した表層海水中137Cs濃度分布の経年変化

図12-8 LAMERによって算出した表層海水中137Cs濃度分布の経年変化

ビキニ周辺で大気圏内核実験の始まった1955年(a)にはビキニ周辺の137Cs濃度が高いが、その後黒潮による輸送及び旧ソ連による大気圏核実験のフォールアウトによって、1965年(b)には北太平洋全体に拡散する様子が再現されました。

事故などにより核燃料サイクル施設から液体放射性廃棄物が海洋に放出された場合、放射性物質(137Cs,239,240Pu等)がどのように拡散するかを知ることは、施設からのリスクの評価及び将来の地球環境の保護の観点から必要です。私たちは、海洋環境放射能による長期的地球規模リスク評価モデルLAMER(Long-term Assessment ModEl of Radionuclides in the Oceans)を開発しており、LAMERを構成するモデルの一つである地球規模の広域拡散モデルについて、大気圏内核実験からの137Cs及び239,240Puフォールアウト(放射性降下物)を用いて検証を行いました。

LAMERは、数時間から数十年の海洋拡散挙動を計算するPartAと、濃縮係数,海産物摂取量,線量換算係数などを考慮して、各地域における海産物摂取によるリスクの評価を行うPartBで構成されます。今回、開発・検証したのはPartAの広域拡散モデルで、核燃料サイクル施設からの液体放射性廃棄物による長期的かつ地球規模での海洋環境影響評価を行うためのものです。広域拡散モデルに要求される仕様としては長期的(数十年間)な地球規模の評価が可能であり、溶解性のCsだけでなく、非溶解性のPuの評価が可能なことが挙げられます。これを満たすために、海洋大循環モデルによる三次元流速場(緯度・経度方向2度毎、鉛直15点における緯度・経度・鉛直方向の流速)の算出、移流拡散モデルによる溶解性物質の水平・鉛直移行計算、スキャベンジングモデルによる非溶解性物質の鉛直移行計算ができるようなプログラムを作成しました。

このように作成した広域拡散モデルのシミュレーション精度を大気圏内核実験からのフォールアウトを用いて検証したところ、他機関により報告されている海水中137Csの鉛直分布152地点のうち、80%以上の地点で、計算値は観測値と一致を示しました。また、東海再処理施設周辺での環境モニタリングから得られたデータとも良く一致し、フォールアウトの影響であることも確認されました(図12-7)。フォールアウトによるバックグランドの将来予想もできるので、海洋における新たな人工放射性物質の監視にも役立ちます。また、図12-8のように、海洋に添加された放射性物質が海流によりどのように拡散していくかを可視化により把握することも可能になりました。


●参考文献
Nakano, M., Simulation of the Advection-Diffusion-Scavenging Processes for 137Cs and 239, 240Pu in the Japan Sea, Radioactivity in the Environment, vol.8, Elsevier, 2006, p.433-448.


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