12-9 集束した水素イオンビームでミクロの凱旋門を作った

−高エネルギーサブミクロンビームを用いた三次元微細加工技術の確立−

図12-20 プロトン・ビーム・ライティング技術で製作した高分子構造体

図12-20 プロトン・ビーム・ライティング技術で製作した高分子構造体

(a)格子状構造体,(b)中空構造を持つ凱旋門型構造体

 

図12-21 高分子三次元構造体の製作過程(現像によって非照射部が溶解するネガ型の場合)
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図12-21 高分子三次元構造体の製作過程(現像によって非照射部が溶解するネガ型の場合)


高崎量子応用研究所のTIARAでは、300万電子ボルト(3MeV)までの高エネルギープロトン(水素イオン)ビームを磁気集束レンズ系により数100nm径までに集束する高エネルギープロトン集束ビーム形成技術を開発してきました。イオンビームの中でも集束性が良いプロトンビームは、物質表面のみの微細加工に従来使用されてきた電子線に比べて大きい100μmを超える物質内到達深度と極めて高い直進性を有します。このため、高アスペクト比の構造体が製作できます。更に、異なるビームエネルギーを使うことで到達深度が変えられるため、三次元中空構造体も製作することができます。これらの特徴に国内でいち早く注目し、2004年度から芝浦工業大学との共同研究により、高エネルギー集束プロトンビームの照射位置を制御して主に高分子膜に照射(露光)し、照射部又は非照射部を高分子溶解液で溶解(現像)することで、三次元構造体を製作する微細加工技術(プロトン・ビーム・ライティング=PBW技術)を開発してきました。

この結果、シリコン基板上に製膜した高分子膜(材料:PMMA,ポジ型:照射部が溶解)にPBWを行い、図12-20(a)に示すような格子状構造体の製作に成功し、数100nmの加工精度を有することを実証しました。更に、この技術を応用してネガ型高分子(非照射部が溶解)のSU-8を用いて、図12-21の「露光」に示すような工程でビーム径1μm,ビームエネルギー3MeV及び1.2MeVでPBWを行い、引き続き図12-21の「現像」に示す工程を行うことで、図12-20(b)の中空三次元構造体(凱旋門型)を製作しました。このように水平加工精度が数100nm、加工深さが最大50μmの三次元微細構造体の試作に成功したのは世界で初めてです。これにより、我が国におけるPBWを用いた三次元微細加工技術は、世界のトップに比肩する水準に到達しました。


●参考文献
Uchiya, N., Ishii, Y. et al., Micro-machining of Resists on Silicon by Proton Beam Writing, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, vol.260, issue 1, 2007, p.405-408.


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