5-8 地下深くで物質が動きにくくなる仕組みの解明

−地下240mで行ったき裂内核種移行実験−

図5-17 地下240mの坑道内で切り出した、き裂を含む約1m3の花崗岩ブロック

図5-17 地下240mの坑道内で切り出した、き裂を含む約1mの花崗岩ブロック

切りくずが混入しないように、また、き裂(平均開口幅約0.3mm)が開いてしまわないように注意しながら、ダイヤモンドワイヤーソーで花崗岩ブロックを切り出しました。ブロックには放射性核種を注入したり、流出させたりするためのポートを取り付け、それ以外のブロック表面はシリコンコーティングして乾燥や酸化を防止しました。

 

図5-18 花崗岩ブロックのき裂に注入した放射性核種とコロイドの流出曲線(C0は注入液中における濃度)

図5-18 花崗岩ブロックのき裂に注入した放射性核種とコロイドの流出曲線(Cは注入液中における濃度)

HOは水自身の移行を示します。これと比較すると、元素ごとに特徴的な移行をしていることが分かります。85Srは花崗岩内部への拡散と可逆的な収着によって移行が遅延されピークが遅れて現れます。238Puはき裂への注入口付近に収着されてとどまり、全く流出しませんでしたのでグラフには現れていません。流出してきたコロイドの濃度は低く、なだらかなピークを示しました。

高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分は、使用済燃料を再処理した後に残る高レベル放射性廃液をガラス固化体として安定化させ、オーバーパックという厚い鉄の容器で密封し、その周辺をベントナイトと呼ばれる緩衝材で覆い、300mより深い安定な岩盤中に埋設する方法です。HLWの中には、長寿命の放射性核種が含まれているので、地層処分の安全性を評価する際には、長い期間のうちにはそれらが廃棄体から溶け出し、岩盤中を移行し、人間に被ばくを与えるかもしれないことを考慮します。そこで、処分場のまわりの岩盤内で地下水の流路になりうるき裂を通って、放射性核種がどのように移行しうるかを理解する必要があります。そのために、原子力機構とカナダ原子力公社(AECL)は5年間の協力研究でAECLの地下実験施設の地下240mの試験坑道内にて、花崗岩き裂内核種移行実験を行いました。

地下水が実際に流れているき裂帯から、き裂の状態を変化させないように注意しながらき裂を含む約1mの花崗岩ブロックを切り出しました(図5-17)。そのき裂にH,85Sr,95mTc,237Np,238Pu及び地下水中の微粒子(コロイド)を模擬した物質を注入した後、き裂帯から採取した地下水を流して、元素やコロイドの移行の様子を調べました。

き裂中を地下水の流れによって放射性核種が移行するとしても、岩盤を構成する鉱物に収着されることにより、その移行が制限されることが期待されています。本実験の結果からは、元素ごとに特徴的な収着挙動が確認されました(図5-18)。85Srは可逆的な比較的弱い収着、238Puは注入口付近にほとんどがとどまるような強い収着でした。95mTc,237Npは一部が非可逆的に鉱物に収着され、残りは地下水と同じ速さで流出しました。これは比較的遅い95mTcと237Npの還元反応に起因する現象であり、還元速度には微生物の活性も影響していることが分かりました。

特異的な挙動が予想されたコロイドは、非常に低い濃度でしか流出しませんでした。本実験におけるコロイドの移行は岩盤き裂内への沈着とき裂中に存在するよどみ領域への拡散に支配されていたと推定されました。

このように、深地層の岩盤には放射性核種の移行を遅らせる働きがあることを実証し、その仕組みを解明しました。この働きが長期的に阻害されるようなことがないかどうか、また、たとえあったとしても安全であるのかどうかについて信頼性のある判断をすることが今後の研究の課題です。本研究でも特異な挙動を示したコロイドについては、定量的な評価方法が確立しておらず、放射性核種と結合してその移行を促進するようなことがあるのかどうかは今後の課題の一つです。


●参考文献
Yamaguchi, T. et al., Radionuclide and Colloid Migration Experiments in Quarried Block of Granite under In-situ Conditions at a Depth of 240m, Proceedings of 15th International Conference Nuclear Engineering (ICONE15), Nagoya, Japan, 2007, ICONE15-10374, in CD-ROM.


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