6-1 ネプツニウム化合物の新奇な磁気構造と軌道秩序

−JRR-3における超ウラン元素の中性子散乱実験−

図6-2 JRR- 3に設置された三軸分光器LTAS

図6-2 JRR-3に設置された三軸分光器LTAS

 

図6-3 NpTGa5で実現する多彩な磁気構造

図6-3 NpTGaで実現する多彩な磁気構造


アクチノイド化合物には、奇妙な性質を示すものが多数存在します。それは、アクチノイド元素が5f電子を持つからです。f電子は原子核のまわりに留まりやすいため、互いに近くにいる多数の4f電子が協力して、希土類磁石の強力な磁力が生じます。ところがウラン,ネプツニウム,プルトニウムなどの5f電子は、原子核から離れて動き回る特徴があります。遠くで飛び回っているf電子は互いに協力できないため、磁石の性質が失われていきます。

私たちは最近、ネプツニウム化合物の中性子散乱実験を、JRR-3に設置された中性子散乱実験装置LTAS(図6-2)において実施しました。超ウラン元素の中性子散乱実験は海外でも極めて例が少なく、国内では今回の実験が初めてです。中性子はそれ自身が小さな磁石であるため、物質に照射して散乱された中性子の強度を測定することによって、物質の中の磁性を担う磁性元素の磁石が、どのように配列しているかを調べることができます。そして原子磁石の向きや大きさは、それを担っている電子の状態や性質を示しています。

実験の結果、図6-3に示したように、同じ結晶構造を持つNpTGa(T=Fe,Co,Ni,Rh,Pt)と呼ばれる一連の化合物は、バラエティーに富んだ磁気構造を持つことが明らかになりました。更に奇妙なことに、いくつかの化合物では、温度や磁場によって異なる磁気構造が安定化します。例えば、NpFeGaは、高温ではNpとFeの磁気モーメントはc軸に垂直ですが、低温ではすべての結晶軸や結晶面と無関係な方向を向くことが実験的に明らかになりました。NpNiGaでは高温でNpの磁気モーメントがc軸に平行にそろって単純な強磁性を示しますが、最低温度では互いに平行でなくなってしまいます(キャント磁性と呼ばれます)。ところが、磁場をかけるとまたc軸に平行な構造に戻ります。このような変化は、Np元素の磁気モーメントを担っている5f電子の電子状態そのものが、磁場や温度によって変わったことを示しています。

理論的な研究の結果、これらの化合物の5f電子は動き回った状態(遍歴的と呼びます)ではあるが、完全にバラバラではなくて、互いにある程度の協力関係(多体効果)を保っていることが分かりました。そのため、温度を変えたり、磁場をかけることで、5f電子軌道の様々な配列を伴う軌道秩序が生じ、磁気構造の変化が説明できることが示されました。今回の研究は遍歴的な5f電子系における軌道秩序を示唆する初めての実験結果として大変注目されており、今後、更に詳細な研究によって軌道のタイプなどを実験的に明らかにしていきたいと考えています。


●参考文献
Metoki, N., Neutron Scattering Study on UTGa5 and NpTGa5, Journal of the Physical Society of Japan, vol.75, supplement, 2006, p.24-29.


| | | | |