7-6 DNAに生じた傷の種類と量を見積もる

−放射線によるDNA損傷の全体像を知るための方法を開発−

図7-17 蛇毒ホスホジエステラーゼ(SVPD)を用いたDNA切断末端分析の手順
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図7-17 蛇毒ホスホジエステラーゼ(SVPD)を用いたDNA切断末端分析の手順

2’デオキシヌクレオシドは2’デオキシリボースと核酸塩基の二種類の物質単位から構成されています。放射線はDNAの鎖を切断するだけでなく核酸塩基も損傷しますが、その損傷の多くは化学薬剤ピペリジンで除去することが可能です。ピペリジン処理後、その部分で鎖が切断され、図右側のようなリン酸のある末端が残ります。そこでピペリジン処理によるリン酸のある末端の増加量を調べれば核酸塩基損傷の量を見積もることが可能です。

 

図7-18 SVPDによるDNA切断末端からのDNA構成単位の切出し量

図7-18 SVPDによるDNA切断末端からのDNA構成単位の切出し量

 

表7-1 60Coγ線によるDNA損傷

表7-1 60Coγ線によるDNA損傷


放射線を始め環境中には様々な生体刺激因子が存在し、それらの一部は遺伝を司る重要な物質であるDNAを傷つけます。化学物質によって生じるDNA損傷はそのパターンがある程度決まっていますが、放射線の場合は損傷の種類が非常に多いのが特徴です。また放射線といってもγ線,X線,中性子線,荷電粒子線など様々な種類(線質)があります。したがってDNA損傷の特徴(種類と量)という観点から考えると、線源によってその特徴が違う可能性があります。更に、荷電粒子等の粒子線の場合にはDNAに作用する際の運動エネルギーの違いによっても損傷の仕方が変わるかもしれません。そこでDNA損傷の種類と量を総合的に見積もることができる、新発想の分析法を開発しました。

DNA損傷に関する情報を得る必要性から、これまでに様々な損傷検出方法が開発されてきました。検出技術で分類すると、特定の損傷を認識する抗体を用いる方法,特定の損傷に化学的に結合する化学薬品を用いる方法,プラスミドDNAの三次元構造変化からDNAの鎖の切断数を得る方法の3種類あります。いずれも高感度であり既知の損傷を検出する上では有用ですが、放射線によって生じるDNA損傷のように化学構造が不明なものが少なからず存在する場合、現状では損傷の種類すべてに対応できません。それどころか、市販の試薬を用いてできる検出法に限れば、3〜4種類程度の損傷しか定量できません。そこで力を発揮するのが以下に紹介する方法です。

DNA損傷は、DNAの鎖の部分が切れる鎖切断と遺伝情報を持つ核酸塩基の部分が壊れる核酸塩基損傷に大別されます。鎖切断は更に、切断した部分(末端)にリン酸があるものとないものがあります(図7-17)。この方法ではDNA損傷を、(1)末端にリン酸がない鎖切断,(2)リン酸がある鎖切断,(3)核酸塩基損傷に大別し、各々の損傷を定量する方法を考えました。蛇毒ホスホジエステラーゼ(SVPD)という酵素は、リン酸のない末端に作用してDNAを細かく切っていきます。これにより一定時間に切り出されるDNA構成単位の量は損傷(1)の量に比例するので、DNA構成単位の量を測定することでその定量が可能です。また脱リン酸酵素CIAPで試料の前処理を行うと、損傷(2)のリン酸が除去されて損傷(1)に換わるため、SVPDを用いた定量が可能となります(図7-18)。一方、試料をあらかじめ化学薬剤ピペリジンで処理すると、損傷(3)がSVPDで定量できる形に変化します(図7-17)。最終的に得られた損傷の種類と各々の収量を表7-1に例示しました。これらの数値は既述のような従来法では得られません。このDNA損傷分析方法は考え方それ自体が斬新であり、SVPDに限らず他の様々なDNA分解酵素や化学的処理を効果的に組み合わせることで、DNAに生じた損傷を特徴づけることが可能なのです。本研究はその中核となる成果といえます。


●参考文献
Akamatsu, K., A Novel Methodology for Characterizing Strand-break Termini and Damaged Bases in Plasmid DNA Exposed to Ionizing Radiation, Analytical Biochemistry, vol.362, issue 2, 2007, p.229-235.


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