14-12 海水中溶存有機物の高精度な14C測定

−AMSによる溶存有機物中14C測定のための前処理法の開発−

図14-26 DOM酸化反応管

図14-26 DOM酸化反応管

海水4Lに紫外線照射し、DOMを二酸化炭素に酸化するための反応管です。中央にあるのが紫外線ランプ(UV)です。実際の照射中は、紫外線を遮へいするため、ステンレス製の箱に入れます。

 

図14-27 二酸化炭素精製ガラスライン

図14-27 二酸化炭素精製ガラスライン

紫外線照射により発生した二酸化炭素を捕集・精製するガラスラインです。二酸化炭素の回収には液体窒素を用います。

 

表14-2 表面海水を用いた精度実験

本実験では、DOM中炭素濃度が64μMの表面海水を用いました。回収効率は、本研究で確立した方法で回収できたDOM濃度と64μMから算出しました。pM(%)とは、1950年の14Cを基準(100%)としたときの試料中に含まれる14Cの割合です。

表14-2 表面海水を用いた精度実験


加速器質量分析法(AMS)は、極微量の長半減期放射性核種を高感度,高精度に測定ができます。青森研究開発センターむつ事務所には、放射性炭素(14C)及び放射性ヨウ素(129I)の測定が可能なAMSが設置されています。AMSは、その特徴を活かし、環境放射能測定などの原子力にかかわりの深い分野だけでなく、地球科学,考古学などの様々な分野で利用されています。

近年、地球温暖化が深刻な問題となっており、地球上での炭素循環のより正しい理解が求められています。放射性炭素(14C:半減期5730年)は、この炭素循環の時間尺度の指標となることから、AMSによる14C計測と地球規模での14Cデータベースの構築は、炭素循環機構解明の鍵と言えます。大気中COを光合成により固定している有機物は、炭素循環の中で大きな役割を担っています。しかし、その有機物の中で海水中の溶存有機物(DOM)の研究は、船上で1試料4Lという大量のろ過作業が伴う試料採取の困難さに加え、海水中DOM濃度の1万倍以上もの塩分を持つ試料から14C測定のために炭素だけを抽出するという実験方法の困難さにより、陸上有機物や海水中粒子状有機物の14C研究に比べ、極端に研究例が少ないのが現状です。特に、日本近海である北西部北太平洋,日本海,東シナ海,オホーツク海での研究例は、一例もありません。海水中DOMは、地表の有機物の約20%を占め、海水中の有機物の90%以上を占めています。また、その量は、炭素の存在量としては大気中COに匹敵するので、地表の炭素循環を考える上で非常に重要です。このような観点から、AMSを利用した海水中DOMの14C測定法の整備が熱望されていました。

この問題を解決するために、私たちは、高塩分試料にも対応可能な紫外線照射DOM分解法を確立し、AMS法と組み合わせました。この分解法は、DOM測定試料に紫外線を照射してCOを発生させ(図14-26)、それを捕集・精製する(図14-27)という二つの段階で構成されています。私たちは、紫外線照射時間の検討により、回収効率を96%以上まで向上させるとともに、反応管及びガラスラインの改良により、試料以外のCO汚染を排除し、汚染を試料量の1%以下(世界最高水準)に低下させることに成功しました。本法によって有機物の標準試料を分解し、AMSによる14C計測を行った結果、その精度(10回分析した時の繰返し誤差)は0.2%でした。この結果は、DOMを媒体とした有機態炭素循環の時間尺度をわずか10数年の誤差で解析することが可能であることを意味しています。実際の海水を用いた実験でも十分な回収率(98%)が得られ(表14-2)、更に、ほかの環境試料に比べて低い14C同位体比を持つ海水中DOM(最も古い年代で約6000年前)においても、再現性の高い結果(0.8%:年代で約80年)が得られることが実証されました。

DOMは、地球上のあらゆる生物活動に影響を与える(受ける)ことから、エネルギー,食品,医薬品などの分野からも注目を集めています。本システムによるDOM中の14C計測は、地球温暖化の正しい理解のために貢献できるばかりでなく、次世代の資源利用や環境予測のための基礎研究にも役立つ可能性をも秘めています。


●参考文献
田中孝幸ほか, 溶存態有機物中放射性炭素測定システムの開発と海水中溶存有機炭素の循環に関する研究, JAEA-Conf 2008-003, 2008, p.71-74.


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