4-4 植物由来のセルロースから作り上げた生分解性弾性ゲル

−放射線橋かけと分子凝集の組合せの妙−

図4-10 生分解性弾性ゲルの作製法

図4-10 生分解性弾性ゲルの作製法

水溶性のカルボキシメチルセルロースは、10wt%以上の濃度で水と練ったペースト状で、γ線や電子線を照射することにより、橋かけが生じてゲル化します。橋かけにより不溶化させて作製したゲルを更に酸溶液に浸漬する処理を行うことで、ゴムのような弾性を付与することができます。

 

図4-11 生分解性弾性ゲルの機械的特性

図4-11 生分解性弾性ゲルの機械的特性

カルボキシメチルセルロースの放射線橋かけにより作製したゲルは、50%圧縮すると形が崩れてしまいます。しかし、酸処理を行って弾性を付与したゲルは、50%圧縮しても形が崩れず、荷重を除去すると圧縮前と同じ形状に戻ります。

光合成によって生長する植物を原料とするセルロースは、カーボンニュートラルな天然高分子です。セルロースに代表される植物由来の多糖類から、数100倍もの体積の水を吸収して膨潤するゲルは、これまで化学薬品である架橋剤を添加して製造されていますが、ゲル中に残留する架橋剤の毒性が危惧されてきました。この問題を解決するため、水に可溶なカルボキシメチルセルロース(CMC)から、架橋剤を用いずにゲルを作製する方法の開発を進めました。この結果、10wt%以上の濃度でCMCと水とを練って、糊状(ペースト)にして、放射線照射することにより、橋かけが可能になり、ゲルが作製できるようになりました。しかし、この技術によって作製したゲルは、高い吸水性を示す反面、膨潤状態で非常にもろいため、応用分野が限られていました。

ゲルの強度の改善には分子構造の制御が重要と考え、酸処理による分子凝集効果の応用を着想し、CMCを放射線橋かけ後、更に酸溶液に浸漬したところ、ゴムのような弾力を備えたゲルが作製できることを見いだしました(図4-10)。これは、酸溶液への浸漬で、放射線橋かけしたCMCゲル中のカルボキシル基の対イオンとして存在していたNaイオンが水素に置き換わり、CMC分子鎖内あるいは分子鎖間の静電的反発力が減少して、水素結合によりCMC分子鎖が凝集し、分子同士の相互作用が強く生じたことに起因すると解釈できます。これを確かめるため、酸溶液に浸漬して作製した弾性のあるCMCゲルの熱分解特性を調べた結果、放射線で橋かけしただけのCMCゲルの分解温度より高温側に分解に起因する新たなピークが現れることが分かり、このことから強い分子間相互作用が生じていることの裏付けが得られました。

弾性のあるゲルの機械的特性を調べてみると、図4-11に示すように、放射線照射によって作製したCMCゲルは50%圧縮すると形が崩れてしまいますが、酸で処理した弾性のあるCMCゲルは荷重を除去すると圧縮前と同じ形状に戻ります。また、壊れる強度も150倍の値(3N/mm)を示すようになりました。このCMC弾性ゲルは、酸の種類に限定されることなく、pHを下げるほど、また、浸漬の処理時間を長くすると強度が増加して硬くなります。例えば、濃度0.5Mの塩酸を用いて4日間浸漬処理すると、放射線橋かけCMCゲルの約100倍硬いゲルになります。

このように放射線を用いた橋かけ技術と酸処理で分子を凝集させる方法とを組み合わせることにより、これまで作製できなかったゴムのような弾力性のある生分解性のゲルを作製できるようになりました。放射線の橋かけで作製したゲルでは、機械的な強度が不足しているため、応用が困難であったパック材などの化粧品分野を始め、環境,医療分野など、新しい植物由来のカーボンニュートラルな材料として幅広い応用が期待されています。

なお、この研究は、群馬県地域結集型研究開発プログラムの中のCMCゲルを用いた家畜汚水中のリン酸濃縮に関する研究の一環として、JSTの支援を受けて行われました。


●参考文献
Takigami, M., Amada, H., Nagasawa, N. et al., Preparation and Properties of CMC Gel, Transactions of the Materials Research Society of Japan, vol.32, no.3, 2007, p.713-716.


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