4-7 新しい放射光X線分光法で観る電子の運動状態

−共鳴非弾性X線散乱による梯子格子銅酸化物の電荷励起の観測−

図4-17 代表的な銅酸化物とその構成要素

図4-17 代表的な銅酸化物とその構成要素

(a)Nd2−xCexCuOの結晶構造 (b)(La,Sr,Ca)14Cu24O41の結晶構造 (c)二次元正方格子 (d)二本足梯子格子

 

図4-18 (e),(f)La5Sr9Cu24O41,(g),(h)Sr14Cu24O41, (i),(j)Sr2.5Ca11.5Cu24O41の共鳴弾性X線散乱スペクトル
拡大図(362KB)

図4-18 (e),(f)LaSrCu24O41,(g),(h)Sr14Cu24O41, (i),(j)Sr2.5Ca11.5Cu24O41の共鳴弾性X線散乱スペクトル

梯子格子の運動量はq=(qrung, qleg)で表しています。(e),(g),(i)は弾性散乱と5eV以上の励起を差し引いてプロットしています。(f),(h),(j)は代表的な運動量でのスペクトルです。

物質中の電子の運動状態、すなわち、どういうエネルギー・運動量状態にあるかを探り、そこから物質の性質を理解することは、物質科学の重要な役割の一つです。電子の運動状態を調べる上で、電子の持つ電荷によって散乱される光は重要な測定プローブです。これまでの歴史において、光源の発展が新しい分光法を生み出し、物質の物理的,化学的な性質を理解するのに貢献してきました。エネルギーの大きな光であるX線についても同様です。最近、SPring-8などからの高輝度放射光X線が得られるようになったことで、X線非弾性散乱という新しい分光法が可能となってきました。従来の多くの分光法が電子の持つエネルギーのみに注目しているのに対し、X線非弾性散乱は運動量に関する情報もあわせて得ることができます。更に、X線のエネルギーを特定原子の電子準位に共鳴させた共鳴非弾性X線散乱では、物質の性質を決めるのに重要な原子中の電子に関する情報を選択的に得ることができます。

研究対象は高温超伝導などで知られる銅酸化物であり、その電子の運動状態を調べることが目的です。図4-17(a)に代表的な銅酸化物超伝導体Nd2−xCexCuOを示します。超伝導の舞台となる構成要素は図4-17(c)に示すCuO二次元正方格子です。この物質についての研究は、「未来を拓く原子力2006」トピックス4-9で紹介しました。今回は、図4-17(b)に示す(La,Sr,Ca)14Cu24O41が対象で、重要な構成要素は図4-17(d)のCuO二本足梯子格子です。この物質も圧力下で超伝導が見つかっており、構造の異なる第二の銅酸化物超伝導体と考えられます。

図4-18に測定を行った三つの組成での共鳴非弾性X線散乱スペクトルを示します。図4-18の上から下の順で梯子格子内の電荷の量が増えていきます。まず目に付くのが2〜4eVにある、運動量に対してエネルギーが変化する励起です。これは、電子間のクーロン反発により分裂した銅の3d軌道と酸素の2p軌道の間にあるエネルギー差を飛び越えるような励起です。(e)から(g)へと電荷の量を変えてもこの励起のエネルギー・運動量依存性はそれほど大きくは変化しません。これは二本足梯子格子の特徴で、電荷量の変化に対してエネルギー・運動量依存性が大きく変わる二次元正方格子とは対照的であることが分かりました。一方、1〜1.5eV付近は(e)から(g)の順に強度が増大していることが分かります。この強度は梯子格子の中で動き回っている電荷の濃度に比例しており、その運動状態を反映したものです。

今回の研究で得られた電子の運動状態についての理解は、超伝導のモデルを考えていく上での基礎と成る舞台設定を与えるものです。結晶構造や電荷量に対する変化を詳細に調べておくことでモデル設定の妥当性が議論できるようになります。

最近、この二本足梯子格子内で動き回っていた電荷が規則的に整列して止まってしまう電荷秩序という状態がある組成で見つかりました。電荷秩序は二次元正方格子でも観測されており、共通して存在する電荷秩序が超伝導に協力しているのか、競合しているのかが重要な問題となっています。電荷秩序状態にある電子の運動をとらえることが次の目標です。


●参考文献
Ishii, K. et al., Momentum-Dependent Charge Excitations of Two-leg Ladder: Resonant Inelastic X-ray Scattering of (La,Sr,Ca)14Cu24O41, Physical Review B, vol.76, no.4, 2007, p.045124-1-045124-7.


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