5-1 運転経験から学ぶために

−加圧水型原子力発電所における1次冷却水応力腐食割れ事例の分析−

図5-2 PWSCCによる原子炉圧力容器上蓋(図5-3のA部分に相当する箇所)の損傷状況

図5-2 PWSCCによる原子炉圧力容器上蓋(図5-3のA部分に相当する箇所)の損傷状況

米国の原子力発電所デービスベッシにおいて2002年に見つかったPWSCCによる原子炉圧力容器上蓋の損傷の写真です。この事例では、原子炉圧力容器上蓋の鋼材がPWSCCによって漏れ出た1次冷却水中のホウ酸が長期間にわたって湿った状態で存在したために鋼材の腐食が起こって写真のような穴が開いてしまいました(厚さ約17cmの上蓋鋼材は完全に腐食していました)。辛うじて上蓋の内側に貼られていた厚さ約1cmの内張り材により大事故にならずに済みました。

 

図5-3 米国の原子力発電所で見つかったPWSCCの発生箇所
図5-3 米国の原子力発電所で見つかったPWSCCの発生箇所

PWSCCという現象は、1990年代初頭から確認されてきましたが、原子炉の安全性にとって緊急の課題ではないとの認識でした。しかし、2000年代に入ってからその発生が顕著に認められるようになっています。この図は、1999年から2005年にかけて米国の原子力発電所で見つかったPWSCC事例を分析し、それらがどこの部分で起こっているかを示したものです。この図から分かるように、PWSCCは、原子炉圧力容器上蓋に取り付けられているCRDMノズル部で多く発生しており、これは、この箇所の温度が最も高いことによるものと考えられています。そのほかのところも比較的温度の高い部分であり、PWSCCが高温の条件下で起こりやすい傾向にあることを示しています。

「経験に学ぶ」あるいは「事故に学ぶ」ことは、原子力に限らず、あらゆる技術分野において重要であると言われています。原子力の分野では、実際に発生した事故や故障についてその原因を分析し、そこから得られる教訓や知見を施設の設計や維持管理に反映させるという活動が、国際的な規模で進められています。

原子力施設、特に原子力発電所において事故が起こるとその被害は甚大に及ぶ可能性があるため、こうした大きな事故に至るような「芽」を事前に摘むことが必要と考えられています。そのため、実際に起こった事故や故障の事例を数多く集めて分析を行うことによって、再発を防ぐための対策を検討することが不可欠となります。また、こうした分析は、継続的に行うことも重要です。私たちは、旧原研の頃からこうした活動を進めてきており、その成果は、随時、原子力安全委員会や原子力安全・保安院,電力会社などの関係機関に提供してきています。

図5-2,図5-3は、最近の事故や故障について行った分析結果の一例を示したものです。この分析例は、PWRにおける原子炉圧力容器や1次冷却系配管などで1次冷却水応力腐食割れ(PWSCC)が起こったという事象を対象としたものです。原子炉圧力容器や1次冷却系配管が破れると冷却材喪失事故(LOCA)が起こり、原子炉の冷却や放射性物質の閉じ込めといった機能の一部が失われる結果となります。こうした重大な事態になるのを防止するのに役立つ知見を得るために、PWSCCがどのような箇所で起こり、どのような方法で見つかったかなどについて分析を行ったものです。この分析から、PWSCCは、原子炉圧力容器上蓋に取り付けられている制御棒駆動機構(CRDM)ノズルや加圧器ヒータスリーブといった高温の環境にさらされる機器に多く見られることが分かります。また、PWSCCの発見には、目視による検査のほか、検査対象箇所に応じて超音波試験あるいは渦電流試験などを適宜組み合わせて行うことが重要であることが分かりました。このほか、どのような修理を行ったかについても分析を行い、我が国の原子力発電所におけるPWSCCの早期発見の方法や対策の検討に役立つ情報としてまとめました。


●参考文献
高原省五, 渡辺憲夫, 米国の加圧水型原子力発電所におけるAlloy 600製圧力バウンダリー構成機器の1次冷却水応力腐食割れ事例の傾向分析, 日本原子力学会和文論文誌, vol.5, no.4, 2006, p.282-291.


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