14-8 ウランを用いない先進的医療診断用99Mo製造への挑戦

−モリブデン酸塩水溶液を用いた99Moの製造技術開発−

 

図14-17 溶液照射法による99Mo製造システムの概略構成と評価項目

図14-17 溶液照射法による99Mo製造システムの概略構成と評価項目

照射系では、原子炉の炉心に設置されたキャプセル内のモリブデン酸塩水溶液を中性子照射し、99Moを生成させます。供給・循環系では、キャプセル内に水溶液を供給し、水溶液を循環させます。回収・分注系では、生成した99Moを含む水溶液を回収し、PZCにモリブデンを吸着させPZC-99Moカラムとするか、不純物除去後、輸送容器に小分け分注し、出荷します。(1)〜(4)に、各系での評価項目を示します。

 

図14-18 水溶液の吸収線量と生成ガス中の水素割合

図14-18 水溶液の吸収線量と生成ガス中の水素割合

KMoO水溶液(濃度58wt%,液温80℃)の放射線分解によって生成したガス中の水素割合を調べたところ、水溶液は純水より多くの水素を生成することが分かりました。

 

図14-19 SUS304の浸漬時間と腐食速度の変化

図14-19 SUS304の浸漬時間と腐食速度の変化

KMoO水溶液(濃度58wt%,液温80℃)中にSUS304を浸漬し、水溶液とSUS304の両立性を調べたところ、約80日間の浸漬でもSUS304に腐食は生じませんでした。

テクネチウム99m(99mTc)は、医療用放射性診断薬として核医学の分野で最も多く利用されています。我が国では現在、99mTcの原料(親核種)となるモリブデン99(99Mo)の全量を海外輸入に頼っています。しかし、近年の海外製造炉のトラブルなどにより、その供給不安定が問題となっています。このため、国内において99Moを安定的に製造・供給することが必要です。

99Moは、これまで主に濃縮ウランを原料とした核分裂法によって製造されてきました。しかし、我が国では、核不拡散や放射性廃棄物の観点から、核分裂法で99Moを製造することが困難になっています。そこで、99Moをモリブデン酸塩水溶液の形で出荷していることに着目し、溶解度の高いモリブデン酸塩の水溶液を原子炉内で中性子照射し、98Mo(n,γ)99Mo反応と高性能Mo吸着剤(PZC)を利用して99Moを製造する溶液照射法を考案しました(図14-17)。この方法は、照射体積を大きくできることから99Moの製造量を増やせる、核分裂法に比べて出荷までの処理が簡便である、放射性廃棄物の発生量を大幅に削減できるという三つの利点を有しています。

溶液照射法で使用するモリブデン酸塩水溶液として、99Moの生成量を増やすため、Mo溶存量が高いモリブデン酸カリウム(KMoO)水溶液に着目し、本水溶液のγ線照射試験を行って、溶液照射法への適応性を調べました。その結果、次のことが分かりました。(1)水溶液の放射線分解により生成するガス中の水素割合(図14-18)は純水の約20倍となるが、99Mo製造システムに設置する発生ガス処理装置により水素を除去できるため安全上問題にならない。(2)水溶液のγ線照射による発熱量は純水と同程度である。(3)水溶液とキャプセルなどの構造材料(SUS304)との両立性は良好である(図14-19)。(4)水溶液は、配管(内径4mm,長さ30m)中で沈殿物を生成せず、安定的に流動する。

以上から、KMoO水溶液を溶液照射法による99Mo製造システムに適用できることが明らかになりました。また、本水溶液をJMTRで照射した場合の99Mo製造量を試算したところ、国内需要(88.8TBq/週)の20%以上を供給できる見通しが得られました。

今後は、本研究で得られたデータをもとに、本システムの実用化に向けた検討を行う予定です。


●参考文献
稲葉良知ほか, 溶液照射法による99Mo製造に関する技術開発;モリブデン酸塩水溶液の特性評価, 日本原子力学会和文論文誌, vol.8, no.2, 2009, p.142-153.


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