4-3 水素エネルギー社会実現へ向けた材料開発へ指針

−水素とアルミニウムの直接反応によるアルミニウム水素化物の合成−

図4-6 合成されたAlH3結晶と未反応のアルミニウム金属の顕微鏡写真

図4-6 合成されたAlH結晶と未反応のアルミニウム金属の顕微鏡写真

中心の黒く見える部分が未反応のアルミニウム金属です。その中の透明なガラス状の粒がAlHの結晶で、大きさは数〜数10μmです。一部を取り出したものを挿入図に示します。アルミニウム金属を囲む凹型の白い部分は試料容器です。

 

図4-7 放射光その場観察により得られた高温高圧水素流体中のアルミニウム試料の粉末X線回折パターン

図4-7 放射光その場観察により得られた高温高圧水素流体中のアルミニウム試料の粉末X線回折パターン

水素圧8.9GPa,600℃で合成したAlHを加熱すると、約700℃で分解して水素を放出します。ここから冷却すると約640℃でアルミニウムが再び水素と反応してAlHが再生成します。

水素は環境負荷の小さい理想的なエネルギー媒体であるため、燃料電池の開発など水素を利用したエネルギー技術の開発が技術先進国で精力的に取り組まれています。水素エネルギー技術を開発する上で、安全で効率的な水素貯蔵技術の確立は克服すべき課題のひとつです。圧縮水素ガスや液体水素の貯蔵と比べて、金属の水素化合物は安全かつ大量に水素を貯蔵することができることから、水素の貯蔵材料として有望視されています。

従来から知られているランタン・ニッケル水素化物などの水素吸蔵合金は、比較的低い圧力で水素を吸蔵することができます。一方アルミニウムは非常に高い圧力でないと水素を吸蔵できません。また、アルミニウム表面に形成される不動態皮膜と呼ばれる酸化膜が水素化反応を妨げるため、水素との直接反応によるアルミニウム水素化物の合成は困難とされてきました。しかし、アルミニウム水素化物は、水素を高密度で含有(水素の重量密度が約10%)するため、燃料電池自動車などに用いる水素貯蔵材料としては最適です。直接反応が可能になれば、アルミニウムへ異種金属を添加した新しい軽金属合金を用いることも可能で、より低い圧力で水素を吸蔵する新しい水素吸蔵材料の開発につながります。これは、クリーンな水素エネルギー社会実現へ向けた一歩です。

今回、私たちは、高温高圧下において水素が極めて反応性の高い水素流体になることを利用して、約600℃-9GPaの水素圧下で直接反応によるアルミニウム水素化物の合成に世界で初めて成功しました(図4-6)。SPring-8のX線回折実験でその場観察を行ったところ、水素放出過程と再水素化過程をとらえることに成功しました(図4-7)。反応性の高い水素流体が不動態皮膜の影響を抑えられたと考えられます。

今後、水素化反応機構を解明して、より低い温度,圧力下で水素化反応を起こすアルミニウム合金の開発を目指します。

本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「水素貯蔵材料先端基盤研究事業」の成果の一部です。


●参考文献
Saitoh, H. et al., Formation and Decomposition of AlH3 in the Aluminum-Hydrogen System, Applied Physics Letters, vol.93, issue 15, 2008, p.151918-1-151918-3.


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