7-9 高温ガス炉を用いて安全に水素を製造するために

−原子炉からの放射性物質の移行を止める−

図7-22 GTHTR300C

図7-22 GTHTR300C

高温ガス炉の炉心で加熱された950℃の1次冷却材(ヘリウムガス)は、中間熱交換器を介して2次冷却材(ヘリウムガス)に原子炉の熱を伝えます。約900℃まで加熱された2次冷却材は、IS水素製造施設に輸送され、水素製造の熱源として用いられます。このとき、炉心で発生した放射性物質であるトリチウムが、中間熱交換器,水素製造化学反応器に組み込まれた伝熱管を透過して製造される水素に移行することを防止するのが、重要な課題です。

図7-23 水注入法による水素へのトリチウム移行防止

 

図7-23 水注入法による水素へのトリチウム移行防止

冷却材中のトリチウムは、化学形がHTであるために金属製の伝熱管をごくわずかに透過します。そこで、2次冷却材に水を注入し、トリチウムの化学形を、金属を透過しにくいトリチウム水(HTO)に変化させて、透過を抑制する方法を考案しました。

 

図7-24 水素中トリチウム濃度の低減効果(解析)

 

図7-24 水素中トリチウム濃度の低減効果(解析)

2次冷却材への水注入により、水素中トリチウム濃度を人体などに全く影響のない許容濃度以下に低減できることが確認できました。

将来の低炭素社会の実現に向けて、高温ガス炉から取り出される950℃の高温の熱を用いて、熱化学法ISプロセスによって二酸化炭素を排出することなく水から水素を製造する高温ガス炉水素電力コジェネレーションシステム(GTHTR300C,図7-22)の開発を進めています。GTHTR300Cの開発における課題のひとつに、放射性物質であるトリチウムが、製造される水素に移行するのを防止することがあります。原子炉の炉心では、核分裂反応などによってトリチウムが生成します。水素の同位体であるトリチウムは、ごくわずかですが熱交換器の金属製の伝熱管を透過するため、1次冷却材から2次冷却材、更に水素製造施設へ移行し、最終的に水素に混入する可能性があります。製造した水素を安全に利用するためには、水素中のトリチウム濃度を人体などに全く影響のない許容濃度以下にすることが不可欠です。

これまでに、伝熱管に使用する材料の透過特性を調べるとともに、水素に移行するトリチウム量を評価するための解析手法の開発、移行量低減対策の検討などを行ってきました。その結果、冷却材中の不純物(CO等)の除去用に設置されている純化設備はトリチウムも除去できるため、純化設備の大容量化によって水素中のトリチウム濃度を許容濃度以下にできることが分かりましたが、原子炉施設の建設費が予想以上に増大する問題が生じました。そこで、純化設備の大容量化に代わる対策として、2次冷却材への水注入法を考案しました。これは、2次冷却材中のトリチウム(化学形:HT)を水との同位体交換反応によって金属を透過しにくいトリチウム水(化学形:HTO)に変化させ、これにより伝熱管のトリチウム透過量を抑制して、水素中トリチウム濃度の低減を図るものです(図7-23)。主な追加機器は水供給用のポンプだけであり、安価な増設で実施できます。解析の結果、原子炉施設の構造材に悪影響を与えない程度の少量の水を注入して水蒸気にすることによって、水素中トリチウム濃度を許容濃度以下に低減できることを明らかにしました(図7-24)。

本成果により、GTHTR300Cの経済性を損なうことなく、実用化へ向けて更なる一歩を進めることができました。今後は、HTTRで取得するトリチウムデータを用いて解析手法の高精度化を図り、注入水量の最適化を行う予定です。


●参考文献
大橋弘史ほか, 次世代原子力プラントにおけるトリチウム挙動の評価およびトリチウム濃度低減対策の検討, 日本原子力学会和文論文誌, vol.7, no.4, 2008, p.439-451.


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