12-3 進化の仕組みを用いて正確な材料劣化シミュレーションを行う

−遺伝的アルゴリズムによる多結晶体構造の生成−

図12-6 遺伝的アルゴリズムを応用して作成した多結晶体

図12-6 遺伝的アルゴリズムを応用して作成した多結晶体

実際の多結晶体の中に観察される粒は平均サイズよりもかなり大きい粒や小さい粒を含んでいます。従来、材料シミュレーションに十分な粒数を有するこのような多結晶体を計算機上で作成する方法がありませんでした。

図12-7 最適化前後の粒サイズ分布の変化(a)
図12-7 最適化前後の粒サイズ分布の変化(b)

図12-7 最適化前後の粒サイズ分布の変化

単純に乱数で多結晶体を作った場合、(a)のヒストグラムのように平均的な大きさの粒しかできず、現実的なサイズ分布(青い実線)からはかけ離れています。これを遺伝的アルゴリズムによって、(b)のような現実的な粒サイズ分布に最適化することが可能になりました。

原子力材料を含め様々な材料をミクロな目で見ると、図12-6のように多くの結晶粒が集まった多結晶体であることが分かります。このような多結晶体での材料劣化の機構解明は、材料研究の大きな課題ですが、その原因のひとつは結晶粒界での原子結合状態の変化にあると考えられています。したがって、劣化を予測するためには、実験観察と一致するような結晶粒の形状をまず再現し、その結晶粒境界の変化をシミュレーションすることが重要です。そのため、私たちはまず、劣化予測のための第一歩となる、実験観察と一致する形状の結晶粒を自動的に生成するシミュレーション技術を開発しました。

その際、大きな問題となったのは、実験観察にて得られている結晶粒形状の特徴を従来行われてきた方法で再現しようとすると、多大な計算時間がかってしまい、原理的に計算が不可能となってしまう点です。私たちは、この難題を解決する方法として、遺伝的アルゴリズム(GA)の利用が最適であると気付きました。GAとは、ダーウィンの進化論にそのアルゴリズムの起源を辿ることができます。つまり、ダーウィンの進化論によると、多数の同種の生物が突然変異と自然選択を繰り返しながら環境に徐々に適応していきますが、このような仕組みを数値的な最適化に応用したのがGAです。

ここでは多数の同種の生物の代わりにたくさんの多結晶体を作っておきます。その中で私たちが欲しい特徴を持った多結晶体に比較的近いものを残します(自然選択)。残った多結晶体を親としてそれから少し違った多結晶体をまた多数作ります(増殖)。そしてまた、その中で私たちが欲しい特徴を持った多結晶体に比較的近いものを残します。これを繰り返していくと、同時にたくさんの多結晶体を比較できるので、従来法よりも効率良く目標とする多結晶体を得ることができます(図12-7)。

この手法の開発によって、シミュレーションに必要な結晶粒数が数千個の多結晶体データが初めて作成可能になり、原子力材料研究にとって重要である結晶粒の成長、材料の変形・破壊などの計算機シミュレーションをより現実的な初期条件からスタートできるようになりました。


●参考文献
Suzudo, T. et al., An Evolutional Approach to the Numerical Construction of Polycrystalline Structures Using the Voronoi Tessellation, Physics Letters A, vol.373, issue 48, 2009, p.4484 - 4488.


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