4-7 イオン照射と放射光で探る太陽系物質の起源

−始原的隕石中の希ガス元素は有機高分子中にあるのか?−

 

表4-1 X線吸収スペクトル法で求めたアルゴンの表面濃度

石炭は粉末で測定しました。

表4-1 X線吸収スペクトル法で求めたアルゴンの表面濃度

 

図4-14 グラファイト,フラーレン,ケロジェンのAr-K吸収端付近のX線吸収スペクトル

図4-14 グラファイト,フラーレン,ケロジェンのAr-K吸収端付近のX線吸収スペクトル

石炭中のアルゴンのピークはグラファイトやフラーレンと比較して極めて小さいです。

太陽系がどのようにして形成されたのかを知るためには、隕石の研究が欠かせません。隕石中には太陽系が形成された当初の情報が保存されているからです。特に始原的隕石中に含まれる希ガス元素は、化学的に不活性であることから種々の化学的反応によって擾乱されないため、多くの有益な情報を含んでいます。
  始原的隕石中に存在する希ガスのほとんどは、隕石中の金属や鉱物を塩酸とフッ酸で溶かした残渣のうち硝酸等で酸化されやすい部分(phase Q)に含まれています。phase Qの組成と形成過程を明らかにすることは太陽系の起源を解き明かす上で最も重要な課題とされ、長年にわたって多くの研究者がphase Qの単離に挑みました。しかし成功例はなく、phase Qがおそらく石炭等の有機高分子(ケロジェン)に近い炭素質物質であろうと予想されているだけなのが現状です。
  そこで本当に有機高分子が希ガスの有効な担体と成るのかを、イオン照射と放射光分析を用いて検証を行いました。試料は七種類の石炭のほか、比較対象として炭素の同素体(グラファイト,ダイヤモンド,フラーレン,カーボンナノチューブ)をそろえました。なるべく試料を破壊しないために3keVの低エネルギーでアルゴンを1時間ほど照射してアルゴンを飽和させ、アルゴンの表面濃度を見積もりました。濃度の測定方法としては、X線光電子分光法とX線吸収スペクトル法の二つの方法を用いました。X線吸収スペクトルからアルゴン濃度を計算する方法は独自に考案しました。
  その結果、X線光電子分光法では石炭中にアルゴンを 検出することができませんでした。一方、X線吸収スペク トル法では、炭素同素体はいずれも0.40〜0.79%の濃度を示したのに対し、ケロジェンは0.04〜0.08%と炭素同素体より一桁低い濃度を示しました(表4-1 ,図4-14)。この事実は石炭が炭素同素体と比較して希ガスの保持力が明らかに劣っていることを示しています。
  ダイヤモンドやグラファイトは隕石中にも存在していますが、それらはphase Qでないことが分かっています。希ガス保持力が劣った物質中にだけ希ガスが濃縮して存在し、逆に希ガス保持力に優れた物質中に希ガスが少ないと考えることは難しく、本研究の予想外の結果は従来の学説に大きな疑問を投げかけています。phase Qは地球上の有機高分子とはかなり異なった分子構造を持っているのかもしれません。


●参考文献
Osawa, T. et al., Argon Retentivity of Carbonaceous Materials: Feasibility of Kerogen as a Carrier Phase of Q-Noble Gases in Primitive Meteorites, Earth, Planets and Space, vo.61, no.8, 2009, p.1003-1011.


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