7-2 ウラン化合物の謎に挑む

−超高純度単結晶URuSiの新規物性−

 

図7-5 URu 2 Si 2の単結晶

図7-5 URuSiの単結晶

左は、引き上げ法で作製した単結晶を熱処理して得た超高純度単結晶インゴットです。右は、測定用に整形した試料です。

 

図7-6 URu2Si2単結晶の電気抵抗

図7-6 URuSi単結晶の電気抵抗

縦軸は室温の値を1としたものです。No.1は不純物量が最も少ない試料です。1.5K付近で抵抗が急激に減少しているのは超伝導転移によるものです。

アクチノイド元素を特徴づける5f電子は多くの自由度を持つため、相転移を通じて多様な秩序状態を作ります。磁気秩序や、電子分布の向きがそろう多極子秩序が良く知られており、これらは中性子・ X線散乱やNMR等の測定手段によりその起源が解明されています。しかし、URuSiが17.5Kの低温で起こす相転移の起源については、1985年の発見以来25年にわたり、いかなる測定によっても決定的な結果が得られておらず、「隠れた秩序」と呼ばれています。

私たちは、URuSiの隠れた秩序へのアプローチとして、電気抵抗の詳細な測定が手がかりになると考えました。電気抵抗の振る舞いは間接的ではありますが、電子の散乱を通じて電子状態,秩序状態の性質を反映します。例えば、強い電子‐電子散乱は温度の二乗に比例する寄与を与えます。ただし金属の場合、低温で不純物や格子欠陥等による散乱がもたらす残留抵抗の寄与が無視できません。残留抵抗が大きければ、そのほかの寄与を分離するのは極めて困難となります。そこで、残留抵抗の小さい、すなわち超高純度の単結晶試料を作製することが不可欠となるのです。

私たちは、固相電解法によるウラン金属の精製と単結晶育成手法及び超高真空下での熱処理を組み合わせることにより世界で最も残留抵抗の小さなURuSi単結晶を作製することに成功しました(図7-5)。この世界最高純度の試料を含め5個の試料を用いて測定した電気抵抗を図7-6に示しました。No.1の試料が最も残留抵抗が小さく、No.5の試料に比べて約1/10です。電気抵抗の振る舞いは、両者で異なっています。No.5は、通常のウラン化合物の試料としては十分に「高純度単結晶」ではありますが、低温では残留抵抗に支配され詳細な振る舞いは分かりません。ところが残留抵抗の小さい世界最高純度のNo.1では、温度のほぼ1.5乗に近い振る舞いが見られます。これは、前述した通常の電子-電子散乱では見られない異常な振る舞いです。電気抵抗は秩序状態からの散乱を反映しているため、これが「隠れた秩序」解明への重要な鍵を提供することは間違いありません。

アクチノイド元素は、核燃料として非常に重要である一方、URuSiの例に示されるように5f電子による多彩な性質の理解は必ずしも十分には進んでいません。このような研究の積み重ねがアクチノイド元素の電子状態の理解につながると期待されます。


●参考文献
Matsuda, T. D. et al., Super Clean Sample of URuSi, Journal of the Physical Society of Japan, vol.77, suppl.A, 2008, p.362-364.


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