8-3 金属材料の変形過程をミクロな視点で観察する

−原子シミュレーションによる欠陥構造のモデリング−

図8-8 欠陥構造(転位と双晶)の原子モデル

図8-8 欠陥構造(転位と双晶)の原子モデル

金属材料中の欠陥である転位と双晶をアルミニウムの原子モデルを用いて構築しました。各原子はエネルギーで色分けされていますが、エネルギーが高い部分がそれぞれの欠陥に対応しています。

 

図8-9 転位と双晶の相互作用エネルギー変化

図8-9 転位と双晶の相互作用エネルギー変化

転位が双晶に近づいて相互作用するときの転位の単位長さあたりのエネルギー変化を示しています。相互作用する際には高いエネルギーの山が存在することが分かります。

 

図8-10 相互作用の際の欠陥の運動の原子イメージ

図8-10 相互作用の際の欠陥の運動の原子イメージ

図8-9の記号に対応した経路上の欠陥の運動する様子を示しています。(ii)の状態では転位が双晶に接する瞬間でエネルギーが最も高くなります。また、接したあとは黒と赤で囲まれた部分で転位が二つに分解して運動していくことが分かります。

原子力プラントの炉内構造材料の多くは金属材料によって構成されています。金属材料は、内部に原子配列の不規則な部分(材料欠陥)が存在し、それらの内部組織の運動や相互作用が変形や割れといった材料としての機械特性を決定します。高分解能の観察技術によってこのような材料組織を実験によって観察することが可能になっていますが、組織が変化していく様子を直接観察することは困難です。しかし、変形を受ける材料では材料組織は刻々と変化しており、割れが生じる場合には欠陥構造が重要な役割を担います。そのため、材料内部の欠陥構造の変化をミクロな視点から理解することが材料の変形機構を理解するために重要になります。

材料欠陥の中でも、転位(結晶中の面と面の間のずれ)と粒界(結晶粒と結晶粒の境目)の二つの欠陥の相互作用は、金属材料の変形や強度に大きく影響することが知られています。そこで、計算機シミュレーションを用いて、金属材料を原子の集合として考え、欠陥構造を直接的にモデル化することにより、相互作用の際のミクロ組織の変化の様子を解析しました。図8-8は転位と粒界の中でも整合性が高く安定に存在する双晶を実際にアルミニウム原子を用いてモデル化したものです。変形を受けるときに転位が運動して双晶にぶつかりますが、そのときの転位の運動する様子を原子論的な状態遷移解析手法を用いて解析しました。得られたエネルギー経路を図8-9に示します。横軸が0のときが図8-8の状態に対応し、1のときが相互作用をしたあとに対応していますが、図から転位が双晶に近づき相互作用する際に高いエネルギー障壁を越える必要があることが分かりました。次に、実際の欠陥の運動の様子を図8-10に示します。(i)〜(iv)の記号は図8-9に対応しており、転位が双晶と接した瞬間にエネルギーが最も高くなることが分かります。相互作用後は転位は双晶上で二つの新たな転位に分解し、一方は双晶上でひずみを生じ、他方は方向を変えて運動を続けることが分かりました。以上の結果から、双晶は転位のすべり変形の大きな抵抗になることや、転位の分解により新たなすべり変形を引き起こすことが明らかになりました。このように、計算機シミュレーションを用いたミクロな欠陥構造の視点から、材料のマクロな変形挙動の理解に貢献できると考えています。


●参考文献
Tsuru, T. et al., Fundamental Interaction Process between Pure Edge Dislocation and Energetically Stable Grain Boundary, Physical Review B, vol.79, issue 1, 2009, p.012104-1−012104-4.


| | | | |