9-1 将来の効率的な水素製造を目指して

−熱化学法ISプロセスにおけるヨウ化水素濃縮用分離膜の開発−

図9-2 熱化学法ISプロセスの概要

図9-2 熱化学法ISプロセスの概要

水からヨウ化水素と硫酸を生成し、それらを高温ガス炉の熱を用いて分解することで、水素と酸素が生成されます。

 

図9-3 イオン交換膜を用いたヨウ化水素濃縮の原理

図9-3 イオン交換膜を用いたヨウ化水素濃縮の原理

イオン交換膜における水素イオンの選択的透過及び、ヨウ素とヨウ化物イオンとの酸化還元反応を利用して、ヨウ化水素水溶液を濃縮します。

 

図9-4 放射線グラフト膜と市販膜の性能比較

図9-4 放射線グラフト膜と市販膜の性能比較

放射線グラフト膜を用いることにより、ヨウ化水素濃縮に必要な消費エネルギーを市販膜(ナフィオン)に比べて大幅に削減することができました。

高温ガス炉の熱利用技術開発の一環として、熱化学法ISプロセスの研究開発を行っています。ヨウ素と硫黄を循環物質とした化学反応を組み合わせることで、原料の水を分解して水素を製造する技術です(図9-2)。この技術は、原子力エネルギーの利用拡大につながるだけでなく、化石燃料などの炭素源を使用しないため、炭酸ガス排出削減にも貢献できるクリーンな技術です。

ISプロセスは、高温ガス炉の熱を水素の化学エネルギーに変換するプロセスであり、水の電気分解などの既存技術の効率を大幅に超える40%以上の高い熱効率で運転することが望まれます。ISプロセスによる高効率水素製造にとって、ヨウ化水素の分離濃縮を効率的に行うことが重要であり、私たちは、水素イオンのみを選択的に通す分離膜(イオン交換膜)を用いてヨウ化水素水溶液を濃縮する方法の研究を進めています(図9-3)。

効率良くヨウ化水素を濃縮するには、ヨウ化水素水溶液環境で性能劣化せず長時間安定で、かつ、水素イオン選択透過性の高いイオン交換膜が必要ですが、市販膜には満足できる性能を持つものがありませんでした。

一方、原子力機構は、これまでに燃料電池などへの利用を目的にして、水素イオンの選択透過性を左右するイオン交換基の導入量(イオン交換容量)などを調節することにより、使用目的に適ったイオン交換膜を作製する技術(放射線グラフト重合法)を開発してきました。そこで、この独自技術を利用して、ISプロセスのヨウ化水素濃縮に適したイオン交換膜(放射線グラフト膜)の作製を試みました。

膜の基材として四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂のフィルムを選定し、放射線グラフト重合法によりイオン交換容量の異なる膜を作製して、水素イオンの選択透過性を測定しました。測定結果を解析してヨウ化水素濃縮に必要な消費エネルギーを評価し、市販膜の性能と比較したところ、大幅に削減できることが分かりました(図9-4)。

このように、放射線グラフト法を活用することにより、効率的な水素製造のために重要なヨウ化水素濃縮を少ない消費エネルギーで行うイオン交換膜を作製する目処を得ることができました。また、ヨウ化水素水溶液環境における安定性についても、膜の強化処理(架橋)などによって確保できる目処を得ています。今後は、イオン交換容量や使用する高分子の種類などの合成条件を最適化し、信頼性の高いイオン交換膜を実現するための研究開発を進めていく予定です。


●参考文献
Tanaka, N. et al., Electro-Electrodialysis of HI-I2-H2O Mixture Using Radiation-Grafted Polymer Electrolyte Membranes, Journal of Membrane Science, vol.346, issue 1, 2010, p.136-142.


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