12-6 パルス中性子ビームの磁気極性をそろえる

−J-PARC大強度パルス中性子ビームで利用できる偏極技術の開発−

図12-14 偏極3He中性子スピンフィルターの概要と評価実験のセットアップ

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図12-14 偏極3He中性子スピンフィルターの概要と評価実験のセットアップ

(a) スピンフィルターの概要です。3He核スピンと平行なスピンの中性子を選択的に透過させるので中性子ビームの偏極、散乱中性子の検極に使えます。
(b) システムの内部の写真です。内部には3Heガスセルのほか、レーザー光学系と磁場環境が組み込んであります。
(c) 評価実験のセットアップの様子です。図のようにビーム軸上にシステムを設置し、3Heガスの偏極前後の中性子透過率を測定しました。

 

図12-15 本システムの中性子偏極性能

図12-15 本システムの中性子偏極性能

3Heガス中性子スピンフィルターの中性子偏極性能は3Heガスの偏極度、封入した3Heガスの面密度と中性子の波長に依存します。図は今回のシステム(3Heガスの偏極度が73%、3Heガスの面密度が17 atm/cm)の場合のシステム性能の波長依存性を示しています。波長0.15 nmの中性子に対して中性子透過度30%、透過中性子の偏極度90%と実用十分な性能を持つこと、J-PARCの広帯域のパルス中性子ビームの偏極が可能であることが確認できました。

中性子はスピン角運動量を持っています。スピンがそろった中性子(偏極中性子)を用いると物質内部の微弱な磁気散乱の検出が可能になり、磁性材料の研究に威力を発揮します。原子炉施設で使われてきた従来の中性子偏極デバイスは、J-PARCのような波長0.2 nm以下まで広い帯域を持つパルス中性子源には不向きでした。また、パルス中性子源施設では、余計な放射線が中性子検出器に影響して実験データの質が低下するのを防ぐために遮へい体を置きますが、偏極デバイスの設置スペースが広いと遮へい性能が低下します。そのため、偏極デバイスのコンパクト化も開発課題です。

核スピンが偏極した3Heガスは核スピンと反平行なスピンの中性子のみを良く吸収するので、中性子ビームの偏極手段として利用可能です(図12-14(a))。近年、この特性を利用した、広い波長帯域の中性子に対応可能な偏極3Heガス中性子スピンフィルターの開発が世界各国で進められています。

今回、私たちはJ-PARCの装置に組込み可能な小型サイズの偏極3Heガス中性子スピンフィルターシステムを開発しました(図12-14(b))。3Heガスはガラスセルに、偏極時に利用するルビジウム(Rb)とともに封入されています。このセルに磁場を印加し、加熱してRbを気化させ、円偏光レーザーを照射すると、光ポンピング効果によりRbの電子スピンが偏極します。内部の光学系はこの偏極を効率的に行うためのものです。ガラスセル内部では電子スピンが偏極したRbと3Heガスの衝突が繰り返し発生し、3Heの核スピンが偏極します。私たちは波長制御部分とレーザー搬送部分を分離する光学系を改良し、高性能かつコンパクトなシステムを実現しました。

本システムの偏極性能を評価するため、MLFのBL10中性子源特性試験装置で中性子透過度測定を行いました(図12-14(c))。3Heガスの偏極度は73%でした。このときの偏極性能を図12-15に示します。波長0.15 nmの中性子に対して中性子透過度30%、透過中性子の偏極度90%と世界水準レベルの実用上十分な性能を持つこと、広い波長帯域の中性子で使えることが確認できました。

本システムを用いると従来難しかった短波長の中性子の偏極が可能となります。今回の成果は、強磁性や超伝導といった多彩な物性が発現する強相関電子系物質等の研究の発展に大きく貢献するものと期待されています。



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