4-8 特定レアアースを認識する有機化合物の創成

−レアアースの単元素分離・高純度化技術の開発に向けて−

 

図4-15 新しいLn認識化合物PTA

図4-15 新しいLn認識化合物PTA

アミド酸素でLnと強く結合し、しっかりとした形のPhen部位でLnのわずかなイオンサイズの差を識別できます。

 

図4-16 置換基構造が異なるPTAとそのLnに対する結合能力

図4-16 置換基構造が異なるPTAとそのLnに対する結合能力

グラフの横軸はLnの原子番号、縦軸はLnに対する結合能力です。置換基を変えることでサイズ識別特性を制御できます。

ランタノイド(Ln)は、その優れた特性からハイテク製品の高性能化や小型・軽量化に大きく貢献しているハイテク産業に必須の元素です。ハイテク製品の国際競争力を更に高めるには、特定Lnの純度を飛躍的に向上させることが重要です。しかしながら、Lnは安定な原子価がいずれも3価で、イオン半径も近いため、元素個々の分離は非常に困難でした。そこで私たちは、Lnに強く結合できる新しい有機化合物PTA(図4-15)を合成し、この化合物を使ってLnのわずかなサイズの差を認識させることに成功しました。

PTAは主にアミド基とフェナントロリン(Phen)部位から構成されています。アミド基には、その酸素原子がLnに強く結合し、窒素原子上には様々な置換基を導入できるなどの特徴があります。また、Phen部位はねじれたり伸縮したりし難いしっかりとした構造を持ち、二つの窒素原子でLnに結合します。通常、Phenの窒素原子は、酸性条件では水素イオンが結合するため、金属イオンへの結合能力が著しく低下してしまいます。しかし、PTAでは、酸性条件でも水素が結合せず積極的にLnに結合できるアミド酸素の働きにより、高酸性条件においてもPhen部位の窒素がLnに結合できます[1]。さらに、PTA は、アミド窒素上の置換基を変えることで、特定Lnに対する結合性が変化することが分かりました。例えば、アミド窒素上にメチル基とフェニル基を持つPTAはSmに最も強く結合するのに対し、フェニル基をトリル基に交換するとNdに最も強く結合するようになります(図4-16)[2]。すなわち、置換基を変えることで結合形成に適するLnのイオンサイズが変化します。PTAは、置換基を変えるとPhen部位の窒素-窒素間の距離がわずかに変化します。そこで異なる置換基を持つ数種のPTAを合成し、Lnと結合した時の構造を単結晶X線構造解析などにより検討しました。その結果、しっかりした形のPhen部位にLnが強く結合するためには、Lnのイオンサイズがその形に一致する必要があることや、Phen部位の形のわずかな違い(窒素-窒素間の距離)を制御することで最適なイオンサイズを制御できることが明らかとなりました。

このようなサイズ識別特性が異なるPTAを用いたLn分離法を確立できれば、非常に効率良く特定のLnを分離・回収できる技術を開発できると期待されます。


●参考文献
[1] Kobayashi, T. et al., Effect of the Introduction of Amide Oxygen into 1,10-Phenanthroline on the Extraction and Complexation of Trivalent Lanthanide in Acidic Condition, Separation Science and Technology, vol.45, issue 16, 2010, p.2431-2436.
[2] Hasegawa, Y., Yaita, T. et al., Selective Separation of Samarium(III) by Synergistic Extraction with β-Diketone and Methylphenylphenanthroline Carboxamide, Talanta, vol.85, issue 3, 2011, p.1543-1548.


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