5-4 原子炉圧力容器の耐食健全性を調べる

−ナノ組織解析による熱影響下ステンレスの劣化評価−

図5-8 圧力容器とクラッド層

図5-8 圧力容器とクラッド層

圧力容器の内面はおよそ5 mmのステンレス層(クラッド)が 肉盛りされています。圧力容器を高温・高圧の冷却水による腐食から守る役割を果たしています。

 

図5-9 三次元アトムプローブで観察した熱時効後クラッドδ相の原子マップ

図5-9 三次元アトムプローブで観察した熱時効後クラッドδ相の原子マップ

図中で黒部分は原子が存在していない箇所を表しています。Si,Mn,P,Niが集まった大小のクラスターが形成されるとともに、Cr濃度にはムラがあることが分かります。こうした微細な組織変化がクラッド劣化事象の原因と考えられます。

原子炉の炉心を取り囲む原子炉圧力容器(以下、圧力容器という)は、約200 mmの厚さの強靭な低合金鋼(組成の大部分が鉄でできた鋼)で作られている安全上重要な構造物です。圧力容器には内部に高温・高圧の冷却水が流れているため、高い耐食性が要求され、内側には腐食に強いステンレス層(クラッド)が約5 mmの厚さの肉盛溶接法で形成されています(図5-8)。クラッド層の耐食性は高いCr含有率によって担われており、およそ11%以上であれば表面に不動態という酸化膜を形成して腐食に非常に強くなります。

クラッド層はγ相とδ相という二つの性質の異なる金属組織を含んでいますが、原子炉運転時の300 ℃程度の環境で長時間の熱影響を受けると、時間の経過とともに熱時効と呼ばれる金属材料特性の変化が生じ、δ相が硬く脆くなることが知られています。仮にこのような変化によってクラッド層を貫通するき裂が発生した場合には、冷却水が低合金鋼に直接に触れて圧力容器が腐食する可能性があります。原子炉をより安全に使用するためには、クラッド層の変化がどのような機構によって生じているか、微視的な組織変化を詳しく調べて、安全性の確認を行うことが重要です。私たちは、最先端の三次元アトムプローブ法というナノ(10億分の1)メートルサイズの組織を観察できる手法を用いて、クラッド層の組織変化による耐食健全性への影響の評価を目指しています。

三次元アトムプローブ法では、溶質元素の微細な濃度変化を観察することができます。数10年間以上の原子炉運転に相当するように、400 ℃でおよそ1年間の熱処理を行ったクラッドのδ相を、三次元アトムプローブで観察を行った結果、微視的組織に変化が確認されました。Si,Mn,P,Niが集まった大小のクラスター(ナノメートルサイズの原子集合体)を形成しており、Cr濃度にはムラが生じていて、解析の結果、およそ10 nmの周期で変動していることが明らかになりました(図5-9)。こうした箇所では、不動態の形成が遅くなると考えられ、より腐食しやすくなる可能性があります。今後、微細組織の変化と耐食性の関係について確認を行う予定です。

本研究で得られた知見をもとに、私たちは継続的に圧力容器の耐食健全性について詳細な確認を行うとともに、原子炉を安全に使用するための基準の整備に貢献します。


●参考文献
Takeuchi, T. et al., Study on Microstructural Changes in Thermally-Aged Stainless Steel Weld-Overlay Cladding of Nuclear Reactor Pressure Vessels by Atom Probe Tomography, Journal of Nuclear Materials, vol.415, issue 2, 2011, p.198-204.


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