6-5 微生物細胞表面はナノ粒子を生成する工場

−微生物を用いた重元素の回収−

図6-11 セリウム水溶液に酵母を添加して4日間静置したあとの捜査電子顕微鏡写真

図6-11 セリウム水溶液に酵母を添加して4日間静置したあとの捜査電子顕微鏡写真

青色の楕円で示したのが酵母細胞、細胞表面の赤の矢印で示した明るい点がセリウムとリン酸を含むナノ粒子です。左下はナノ粒子の拡大図です。

 

図6-12 微生物細胞表面でセリウムのリン酸塩ナノ 粒子が生成する機構

図6-12 微生物細胞表面でセリウムのリン酸塩ナノ 粒子が生成する機構

 

図6-13 微生物細胞を含まない水溶液中で生成したセリウムのリン酸塩

図6-13 微生物細胞を含まない水溶液中で生成したセリウムのリン酸塩


微生物は生きていくために様々な機能を有していますが、これまでに明らかになってきた微生物の機能はほんの一部であると考えられています。私たちは、生体必須元素以外のアクチノイドなどの重元素を用いることにより、微生物の新たな機能を見いだせる可能性があるのではないかと考えています。

私たちは、微生物が必須元素としてリン酸を細胞内に蓄積することと、希土類元素などの重元素とリン酸塩の鉱物の溶解度が非常に小さいことに着目し、酵母と希土類元素の一つであるセリウム(セリウムイオン)を水溶液中で反応させてみました。その結果、水溶液中のセリウムイオンの濃度が減少するとともに、水溶液中のリン酸塩濃度が上昇しました。そこで、酵母細胞を電子顕微鏡で観察したところ、細胞表面にセリウムとリンを含むナノスケールの微粒子が多数生成することを明らかにしました(図6-11)。水溶液にはリン酸イオンを添加していないことから、水溶液中のセリウムイオンが細胞表面に吸着し、酵母細胞内から排出されたリン酸イオンと細胞表面で反応してナノ粒子を形成したと考えています(図6-12)。電子線回折法による分析から、生成したナノ粒子は希土類元素リン酸塩鉱物であるモナザイト(CePO)であることが分かりました。酵母のいない水溶液中でセリウムイオンとリン酸イオンを混ぜることでもリン酸セリウムの沈殿はできましたが、ずっと大きく形状が異なりました(図6-13)。したがって、酵母細胞は、セリウムのナノ粒子を生成する工場のような役割を果たしたといえます。

微生物の細胞表面におけるナノ粒子の生成は、従来の工学手法とは全く異なる新規のバイオ手法です。この方法では、細胞表面に存在する細胞膜を反応場として細胞の外に存在する物質と細胞の中に存在する物質を会合させることで、従来法ではできない微粒子を簡単に作ることができます。

微生物にはこのような元素を集める機能だけではなく、元素を選別する機能もあるのではないかと考えられます。今後は、このような方法を応用して、核燃料サイクルにおけるアクチノイドの新しい分離・回収法の開発につながる、微生物によるアクチノイド粒子の生成法を見いだしたいと考えています。

このような研究は、アクチノイドの新しい分離・回収法のみならず、放射性廃棄物の地層処分の安全評価におけるアクチノイドの地下水中移行の予測モデルの精緻化に貢献できる可能性のある重要な研究です。


●参考文献
Jiang, M., Ohnuki, T. et al., Biological Nano-Mineralization of Ce Phosphate by Saccharomyces Cerevisiae, Chemical Geology, vol.277, issues 1-2, 2010, p.61-69.


| | | | |