5-4 中性子回折で材料開発のフロンティアを拓く

−世界最速の中性子回折集合組織測定法を開発−

図5-11 iMATERIAにおける集合組織測定実験の模式図

図5-11 iMATERIAにおける集合組織測定実験の模式図

色付きの四角形で示した検出器モジュールに、赤枠の四角形で示すように任意の面積で複数個の検出点を設定し、各検出点で試料からの回折を捉えます。

 

図5-12 結晶の向きの分布を三次元的(φ1、Φ、φ2)に表した結晶方位分布関数のφ2 = 45°断面図

図5-12 結晶の向きの分布を三次元的(φ1Φφ2)に表した結晶方位分布関数のφ2=45°断面図

(a)、(c)は試料の角度を変えて複数回測定する従来用いられる方法で得たフェライト相とオーステナイト相の結晶方位分布図です(36個の検出点で5回測定)。(b)、(d)は今回開発した試料の回転が必要ない方法で得た図です(132個の検出点で1回測定)。いずれの方法でもほぼ同じ図形が得られました。

 


異なる方位を有する複数の小さな結晶の粒(結晶粒)が集まってできた多結晶金属材料では、材料製造過程の圧延や加熱により、結晶の向きがある程度揃った状態になることがあります。この結晶の向きの偏りを集合組織と呼び、その状態が材料強度や変形特性に影響することが知られています。そのため、集合組織を正確に把握し制御することが、強度特性に優れた工学材料の開発に重要であり、そのために高速で効率的な測定システムの開発が期待されています。

集合組織測定には、一般的にX線回折法が用いられますが、金属材料に対する侵入深さが数十ミクロン程度のX線では、表面近傍の集合組織測定に限られ、材料強度特性に関連するバルク平均の集合組織を得るのは困難です。一方で、中性子線の高い透過性を用いることにより、中性子回折法によるバルク平均の集合組織測定が可能になります。しかし、原子炉中性子線を用いた方法では、単一波長の中性子線を試料に照射し、様々な向きに飛んでいく回折線を一つの検出器で測定するため、試料の角度を変えながら測定を繰り返す必要があります。

一方で、飛行時間型中性子回折法では、中性子が発生してから試料で回折し、検出器で検出するまでの時間を計測することで、異なる波長の中性子線を見分けることができます。また、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)にある茨城県材料構造解析装置(iMATERIA)には、図5-11に示す多数の検出器により、132個の検出点で同時に回折線を捉えることができます。これにより、試料の角度を変えずに測定が可能となり、1回の中性子線照射だけで金属材料の集合組織だけでなく、それに含まれる相の割合(相分率)を決定することが可能となりました。定量的な集合組織や相分率の測定が困難といわれる二相ステンレス鋼圧延材の集合組織測定では、1回の集合組織測定に要する時間は数分〜10分程度であり、世界最速レベルの短時間での測定に初めて成功しました(図5-12)。

今後のJ-PARCの中性子線強度の増強により、集合組織測定に要する時間を1分程度に縮められます。そのため、従来難しかった変形中や加熱中に生じる集合組織や相分率の変化を追うことも可能となります。また、高効率モーター用電磁鋼板の高性能化や、自動車軽量化に必要な高張力鋼板に役立つと期待されます。

本研究は、茨城大学、茨城県、日本冶金工業株式会社との協力によって得られた成果です。



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