9-3 核燃料物質の高温での特性を理解する

−二酸化トリウムの第一原理分子動力学シミュレーション−

図9-6 二酸化トリウム結晶中での原子の運動の様子

図9-6 二酸化トリウム結晶中での原子の運動の様子

108個のトリウム原子()と216個の酸素原子()の3500 Kでの運動の様子を示しています。低温では結晶中の原子はきれいに整列していますが、融点付近の高い温度なので、原子の位置が大きく乱れているのが分かります。また、軽い酸素原子の方が大きく動いています。

 

図9-7 二酸化トリウムのエネルギーの温度依存性

図9-7 二酸化トリウムのエネルギーの温度依存性

が計算で得られたエネルギーを示しています。見やすくするために線を引いています。約3000 Kを境に傾きが大きく異なる不連続な変化を見せていることが分かります。

 


より安全でより効率的な核燃料の開発には、高温での燃料の特性を理解することが大切です。しかし、原子炉内での極限状況を再現することは簡単ではなく、全ての性質を実験で得ることは大変なことです。そこで、計算機によるシミュレーションによって、燃料の高温特性を評価することが、実験を補完する方法として期待されています。

二酸化トリウムは次世代原子炉用の燃料として注目されていますが、事故時の安全性評価で重要となる高温での性質が詳しく調べられていません。多くの酸化物燃料は融点近くの高温で異常な振る舞いが現れることが知られています。例えば、二酸化ウランの場合、低温ではエネルギーが温度に対して滑らかに上昇していくのですが、2500 K以上になると急激なエネルギーの上昇が起こります。この現象は二酸化トリウムでも予想されますが、これまでは実験の精度が十分ではなく、この変化が起きているかどうかはっきりしませんでした。

そこで私たちは、第一原理分子動力学シミュレーションを用いて、二酸化トリウムの高温での振る舞いを調べました。第一原理分子動力学とは、電子と原子核の相互作用から原子間の力を求めて、それを基に原子の運動を調べる方法です。この方法では、経験的なパラメータを必要としないため、信頼性の高い計算が可能です。私たちは324個の原子からなる二酸化トリウムの結晶(図9-6)を用意して、大型計算機を用いてシミュレーションを行い、エネルギーと温度の関係を調べました。図9-7にあるように、3000 K付近でエネルギーの傾きが大きく変化しているのが分かります。この変化は二酸化ウランと比べて、500 Kも高い温度で発生することが分かりました。今回の結果はこれまでに得られている実験結果とも矛盾はありませんが、実験より精度の高いデータが得られたことで、実験でははっきりしなかったエネルギーの異常な変化を発見することができました。また、シミュレーション中での原子の運動を調べてみると、3000 K以上の高温では軽い酸素原子だけがまるで液体中の原子のように自由に動き回っていて、このことがエネルギーの異常な変化の原因であることが分かりました。

このようにシミュレーションを用いることで、実験で得ることが困難な様々な性質を評価することが可能となります。これからも数値シミュレーションを用いて、核燃料の性質の精度の高い予測を行い、より安全な核燃料の開発に貢献していきたいと考えています。



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