公開日付: 2025年 2月 7日
アクセスカウント:0
その場中性子回折法による鉄鋼の相変態の再検討
-マルテンサイト相変態における格子定数の変動-
図1 その場中性子回折による部分的マルテンサイト相変態及び焼戻し中における格子ひずみ変化の調査
鉄鋼はその優れた強度、加工性、コスト効率の良さから、建設、自動車、機械など多くの産業で最も広く使用されている金属材料です。一般的な鉄鋼材料では、高温のオーステナイト相から急冷すると硬いマルテンサイト相が形成されます。このマルテンサイト相形成過程(相変態)に伴う内部応力の発生機構は、数十年にわたって議論が続いているものの、未だ明らかにはなっていません。本研究では、マルテンサイト相変態及び焼戻し過程における格子定数、内部応力、結晶欠陥の関係を解明することを目的として、J-PARCの工学材料回折装置「匠」と、その上に設置された加工熱処理シミュレータを用いて(図1(a, b))、その場中性子回折実験を行いました。
図1(c)に温度履歴を示す部分的マルテンサイト相変態(ステップ1)及び繰り返し加熱-冷却過程(ステップ2~4)での格子定数変化を調べた結果、部分的マルテンサイト相変態では母相オーステナイトとマルテンサイトには、それぞれ圧縮格子ひずみ(図1(d))と引張格子ひずみ(図1(e))を示しています。このような格子定数の変化は、オーステナイトには主に空孔が形成され、マルテンサイトには転位が形成されることが原因です。さらに、ステップ2~4で焼戻しによって結晶欠陥(転位と空孔)を除去すると、マルテンサイトにはオーステナイトの引張応力と釣り合う圧縮応力が発生し、元の応力状態に戻ることが分かりました。
本研究は、鉄鋼材料の相変態に伴い発生する内部応力への理解を深め、高強度鉄鋼材料の組織制御に役立つものです。
本研究は、文部科学省の国家課題対応型研究開発推進事業元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>構造材料元素戦略研究拠点(JPMXP0112101000)の支援を受けて行われました。
このページへのご意見やご感想などありましたらボタンをクリックしてご意見ご感想をお寄せ下さい。