公開日付:2025年 4月 30日
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多核種除去設備のスラリー廃棄物中の水素問題の解決に貢献
-実験化学的に炭酸塩スラリーの水素保持・放出特性を解明-
図1 スラリー外部に放出されたH2の割合に及ぼすスラリー高さの影響
グラフは、高さの異なる模擬スラリー(親水性:実際のスラリーと同じ方法で製造、疎水性:親水性表面を疎水化する方法を追加)の試料を容器に入れてコバルト60のガンマ線を照射して、照射後にスラリー上部の容器スペースに放出された水素(H2)を測定した結果です。照射直後に試料を撹拌しない場合と、試料を撹拌してスラリー中のH2を全て容器スペースに追い出した場合の測定(左図)から、スラリー外部に放出されたH2の割合を求めました。固体粒子への水の吸着特性の異なるスラリーの結果から、スラリー中にH2を閉じ込める固体(集団)と吸着水の粘性(粘り気)の影響(右図)が区分されます。
東京電力福島第一原子力発電所の汚染水処理の多核種除去設備(ALPS)では、ストロンチウムなどのベータ線を放出する物質を含むスラリー状の廃棄物が生じます。これが入った容器から水があふれた事象が起きましたが、これはベータ線による水の分解で生じた水素(H2)が気泡(バブル)になってスラリー中に保持されたためでした*。この事象から、多量のH2が突発的に廃棄物から放出される可能性が予測されるため、さらに模擬スラリーを用いた照射実験などを行って、水から生じたH2がスラリー中で気泡になるモデルとともに、H2保持のメカニズムを解明しました。
図1は照射実験の結果で、容器中のスラリーが高くなると、スラリー中で生じたH2が外部に放出されにくくなる、つまり、保持されるH2の割合が大きくなることを示しています。ここで、スラリー中の固体粒子が水を強く吸着する(親水性)スラリーの方が、固体粒子の水離れが良い(疎水性)スラリーに比べて、H2保持が大きくなりました。この結果は、さらにスラリー中に気泡H2を閉じ込める影響を区分していて、疎水性スラリーでは、固体粒子の集団が立体的に気泡H2の行方を阻んでいる(①)のに対して、親水性スラリーではこれに加えて、固体粒子に強く吸着した水の粘性(粘り気)が気泡H2の動きを抑えている(②)ことが分かります。これらの知見は、スラリーの特性に基づくH2保持特性の推定に活用することができます。
* 東京電力株式会社, HIC上のたまり水発生の原因と対策の検討・実施状況, 2015, 37p., https://f-archive.jaea.go.jp/dspace/handle/faa/169249(最終アクセス確認日: 2025年3月17日).
謝辞
本成果は、東京電力ホールディングス株式会社からの受託研究「1F HICスラリー中の水素ガスの保持・放出に係る検討委託」及び「1F 汚泥返送式スラリー等の水素保持特性に関する検討委託」で得られた成果の一部です。
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