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マントルから湧き上がる流体の通り道の検出に向けて
−地震波速度の異方性を利用した検出の試み−


図1 地震波の解析によって推定した地震波伝播経路上の地震波速度異方性の強さ

図1 地震波の解析によって推定した地震波伝播経路上の地震波速度異方性の強さ

図中の直線は、解析に使用した地震の震源(━━ の先端)から地震観測点()へ地震波が伝播した経路を示しています。直線の色は、それぞれの地震波伝播経路上での異方性強度を示しています。異方性強度は、伝播方向の違いによる地震波速度の差が平均的な地震波速度に対して何パーセントであるかを表しています。

 地層処分システムが長期的に安全機能を発揮するためには、地下水の流動や水質などが好ましい状態で維持されることが重要となります。このような地下水の特性を大きく変化させる原因の一つとして、マントルから地殻を通って上昇した流体の混入が考えられています。しかし、数千mよりも深い場所の様子をボーリング調査によって直接知ることはできません。
 本研究では、岩盤中に発達した割れ目帯が流体の通り道となっているのではないかと考え、その場所を知る手がかりとして、地震波速度の異方性(地震波が伝わる方向による地震波速度の違い)に着目しました。異方性の強さは、割れ目の密度などによって変化することが知られており、地震波の解析によって地下十数kmまでの様子を調べることができます。
 九州地方を事例として解析した結果、強い異方性が火山周辺の一部で見られました。この強い異方性は、火山性流体の通り道の存在を示している可能性があると考えられます。
 近年、流体の上昇と地震発生との関係性が注目されています。流体は断層を滑りやすくするはたらきがあるため、地震を引き起こす原因の一つではないかと考えられています。強い異方性が流体の通り道の証拠であることを示すにはさらに詳細な推定事例を示すことなどが必要ですが、本研究は、地層処分のみならず地震防災にも貢献できる可能性があります。

謝辞

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3〜4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 (地質環境長期安定性評価技術高度化開発) (JPJ007597)」で得られた成果の一部です。


著者(研究者)情報

著者(研究者)氏名 | 浅森 浩一
東濃地科学センター 地層科学研究部 ネオテクトニクス研究グループ

参考文献

小川大輝,浅森浩一ほか,九州前弧域におけるS波偏向異方性の推定,物理探査,vol.77,2024,p.15–23.

外部論文: https://doi.org/10.3124/segj.77.15

公開日 2024年 10月 25日

地層処分技術に関する研究開発

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